極上のノンフィクション『硫黄島の星条旗』

昨晩、『硫黄島の星条旗』(ジェイムズ・ブラッドリー&ロン・パワーズ著 
島田三蔵訳文春文庫 ¥952 ISBN4-16-765117-3)を読了致しました。

「著者の父は、なぜ”過去の栄光”を一切語らず世を去ったのか?」と腰
オビにあり、硫黄島の摺鉢山に国旗を掲揚した六人の写真が表紙を飾
っております。

この本は、レイニー・ギャグノン、ジョン・ブラッドリー、ハーロン・ブロック、
アイラ・ヘイズ、フランクリン・サウスリー、マイク・ストランクと言う生まれも
育ちも違う六人が、蜘蛛の糸に絡め取られるように硫黄島の戦闘に集結
し、激戦を迎え………生きて島を出たのは僅か3人………そのうちのひとり
が著者の父。彼らがどんな運命を辿ったのか?を記したものです。

この本の凄いところは、ノンフィクションを書く上では「主観」と「客観」の按配
が非常に難しいのですが、時折「息子の視線」&「取材者の視線」が絶妙
のバランスで記述され、読んでいる自分を近づけてズームで見たり、上空
3000メートルの地点から俯瞰で捉えたりしながら、殆ど読者にそれを意識
させない神業的手法を用いております。

そして………ノンフィクションにおいては「素材第一」と言われておりますが、
「硫黄島国旗掲揚」と言う”黄金分割”になってしまった「美術的写真」が、実
は二回目のものであり、皮肉にも一回目の写真を先に撮ったにも関わらず、
配信が遅れ……「美的」には優れていなかった為(過程はドラマティックな
んですが……(涙))殆ど日の目を見ないでしまったと言う経緯が記されており
ます。

ことろが……硫黄島から流れてくる戦況は、陰惨なものばかりだったので、
マス・メディア&政府&国民は、これで完璧に島を奪還したと思ってしまった。
しかし……本当の戦闘はまだまだ続いていた(涙)と言う展開。ここで3人の
兵士が亡くなります。

残った3人を待ちうけていた世にも皮肉で、残酷な陥穽とは………

「運命」と言うものを感じさせる本は少ないのですが、これは数少ない一冊
でして、前半で六人が硫黄島に引き寄せられる過程は、運命の輪の歯車の
縦軸と横軸が交互に絡みあい、避けようのない戦闘へと導いていく………
そして、島での戦闘……ある一人が生きていたら、生きて島を出たもう一人
は、あれほど早く死を迎えることは無かったのでは?と感じさせる因縁。

そして、運命の輪が完結したときに………はじめて独自の道を歩みはじめる
3人。この顛末は哀しいものなんですが、読んでいて最後の最後には、
嵐の中で揉まれた船が、ゆっくりと母港に辿り付いたかのような終焉を迎え
ようやく安堵の吐息が漏れて参りました。

今まで読んだ中でも、ドウス昌代さまの『ブリエラの解放者たち』をも凌ぐ
最高の戦記ですし、全ノンフィクションを通してみても優にベスト10入りする
程の名作と自分は信じて疑いません。

書店で手に取り、「ピピッ」ときたら、手に取り冒頭の一ページを読んでみて
頂ければと思います。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司

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