(虚)『ジャーヘッド』

三代続いて軍人の家系に生まれた一人の青年アンソニー・スオフ
ォード(ジェイク・ギレンホールさま)。18歳になった彼も、
崩壊した家族と彼女を故郷に残し、何の迷いもなく海兵隊に入隊
し、3代目の「ジャーヘッド」(海兵隊員)となった。しかし、
現実は厳しかった。スオフォードに待っていたのは、虐待と変わ
らない新兵訓練。とめどなく浴びせられる教官の罵声と肉体的苦
痛。大学へ行くべきだったかという疑問が頭を過ぎる。とは言っ
ても、何とか乗り越えたスオフォード。しかし、イラクがクェー
ト侵略に乗り出すと共に、実戦へと駆り出されるのでしたが……。

戦場に向かったものの、一発も敵兵に向かって射撃することの無
い侭戦争が終わってしまうと言う異色の戦争映画です。
この映画を観て先ず連想するのが、キューブリックの『フルメタ
ル・ジャケット』や、アルトマンの『ストリーマーズ』あたりに
落ち着くんでしょうが、自分も観ながらそれを意識しなかったと
言えば嘘になります。

この映画が異彩を放っている理由は、まず湾岸戦争を扱っている
点にあると思われます。徹底したメディア規制が行われた湾岸
戦争では、終わってから15年近くの年月が経とうと言うのに、
『戦火の勇気』、『スリー・キングス』と言う極僅かの映画しか
作られていない訳でして、これはベトナム戦争と比較してみると
大変な違いがあるんです。

そして……この戦争が、もう一つ他の戦争と異なる点は、少なく
とも米国に於いては「志願兵=職業軍人」だけで行われていたと
言う点にあるんです。

今回前置きが非常に長くなりましたが、「ジャーヘッド」とは、
海兵隊員の俗称でして、その海兵隊……映画の中でも語られて
おりますが、設立はアメリカ建国よりも古い!そして、常に最前線
で戦いを強いられており、仲間内の結束は他の軍隊とは比較に
為らないものがあります。そして……ココが最も重要なポイント
なんですが「創設当時から志願制」を敷いていることなんです。

まず驚いたのは、志願してくる筈の猛者揃いの海兵隊員が訓練の
際に恐怖心の為死んでしまう描写があった事。徴兵制の軍隊では
そうした事もあるんだろうなぁ……と思っていたんですが、訓練
でもやはり怖いものは怖い。基地内で起きてしまった「あっけな
い死」に呆然とした次第。

そして……戦場に向かうのも普通の旅客機に乗り、タラップで降
りて、砂漠に降り立ち、ごく普通のミーティングを行う過程。
別にこれって、戦時下でなくても「企業研修」とかで普通に行わ
れていない?と言う「軍隊」だけでは無く「組織」と言うものの
怖さをジワジワと感じてしまった所であります。

で……宣伝文句通りに敵兵も見えなければ、砲火も交えないと言う
所謂「待機拘束時間」が只管流れてゆきます。普通の戦争映画です
と此処で兵士同士の過去のエピソードが語られたり、故郷に残して
きた家族や恋人の事を思うと言う「美談」が入るんですが……
今回は、な……何とあの『ディア・ハンター』であれとはねぇ(w
一体、どんな夫婦生活を送ってきたんだろうか?と勘ぐりたくも
なりますが、やはり当人にしてみれば大ショック!
ですが……乾いたブラックな笑いと共に、そこはかとなく漂う虚
しさ、そして哀しさが仲間を想う兵士の感情と共に押し寄せてく
るのです。

そして……段々と北に向かっていく最中に向き合う「テレビゲーム
の中の戦争の残骸」が、次第に明らかになってゆく。抑えた演出で
ありますが、焼け焦げた砂の足跡だけが白いと言うシーンでは、や
はりそうだったのかぁ……と遅まきながら戦争の惨禍を味あわせて
頂きました。

この映画のクライマックスは、戦闘シーンが無いんで、絵作りには
苦労したと思うんですが、未だ記憶に新しい油田破壊シーン。
原爆投下に伴う「黒い雨」では無く、油田破壊による原油の雨…。

「すると、別の火のように赤い馬が出てきた。これに乗っている
者は、地上から、平和を奪い去ることを許された」
(ヨハネの黙示録6章4より引用)

完全に黙示録イメージの世界。班長のサイクス三等軍曹(ジェイ
ミー・フォックスさま)が語る「この仕事についていなければ、
こんな光景にめぐり合うことは無かっただろう」と語る。紅蓮
の焔が夜空を照らす場面には、確かに軍隊と言う組織に入って
いなければまず御目に掛かれない。金だけでは無く、合法的に
人を殺せるスリル……世界中をタダで廻れる特典。ただ万が一
の代償は自分の死か……欠損か……或いは狂気か?

そんな事を感じつつ、実質4日間で彼の戦争は終わり、帰国……
勝利の凱旋……バスに乗り込んでくるなり祝賀を述べる謎の男。
此処でスオフォードのヴォイス・オーバーがはじまります。

「戦争はみんな違う」

自分の推測ですが、バスに乗り込んできたのは、ベトナム帰還兵
だったのでは無いでしょうか?だから「戦争はみんな違う」

そして…仲間達のその後の描写を綴りながら

「戦争はみんな同じ」

と言うヴォイス・オーバーで滂沱の涙……。

色々な人生の中で「戦争」と言う一つの体験をしてしまった。そ
れは”みんな同じであり、そしてみんな違う”

彼の目にあるのは、耕作まえの長閑な農場……でも、彼の脳裏に
焼きついていたのは、砂漠での蜃気楼。それは、棺桶に入って
故郷に戻った戦友との思い出だったのでしょうか?

「初代 大河浪漫を愛する会」大倉 里司
2006年2月13日ワーナーマイカルシネマズ市川妙典にて鑑賞

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