(医)『シッコ』

この映画のオープニングは、全米に4700万人居ると
言われる何の医療保険にも入っていない人が、怪我をし
てその結果どうなったか?で幕を開けるのでありますが、
実はこの映画の本当のテーマは、国民健康保険制度が存
在していない為に、民間企業が運営している各種医療保
険に加入し、保険料を払っているにも係わらず、イザ
疾病や怪我等で保険の受給を受けたい時に、完治した為
に申請しなかった過去の病気や、既往症等の理由に因って
申請を却下された被害者の声を取り上げ、次いでは何故
その様な理不尽な事が行われるのかを、保険会社からリ
タイアした医師等の声を拾い上げて、給付を断る毎に保
険会社から支払われる支給のランクが上がっていくと言う
実態を明らかにしてゆきます。
一通り「医療後進国」アメリカの実態を紹介した後で、
舞台はお隣のカナダ、フランスと言う「医療先進国」を
訪れ国民全員が無料で医療を受けられると言う事実を紹
介していく。またムーアは、9.11事件の英雄の一団
を集結させる。彼らは、アメリカにおいて医学的治療を
拒否され、今も衰弱性疾患に苦しむ救助隊員たちであっ
た……。彼らが体験した光と影とは?


上記の紹介で殆ど済んで仕舞った感がありますが、行動
する映画監督マイケル・ムーアが身体を張って描き切っ
たのは、世界で唯一の超大国でありながら、一回病気や
怪我をすると一生立ち直れない程の経済的&精神的ダメ
ージを受ける傷だらけの超大国の姿です。
安泰な老後を送る筈だった老夫婦が度重なる疾病により、
自宅を手放し、厄介者として子供の家をたらい回しにさ
れる現実。また、9.11テロの際の「英雄」がビル崩
壊の際に吸い込んだ粉塵により呼吸器不全に苦しんでい
るけれども「市の職員ではなく、ボランティアで参加し
た」事と言う事で、医療保護の対象とはなっていない人
々。英雄のその後を描いた映画では『父親たちの星条旗』
が忘れがたい記憶を残しますが、60年前も現在も、何と
世間の人々は忘れっぽいことか……。
当時は「英雄」として賞賛され、今や「厄介者」として
切捨てられた人々を救ったのは、意外や意外……米国が
敵国と看做している「あの国」だった……。そして、そこ
で彼らに与えられた「敬意」に涙せずには居られません
でした。

勿論、この映画に描かれている事全てが正しいと言う積
もりはありませんし、国民総介護制を敷いた時に、健常
者が払う負担については正直言ってサラリと流しており
ます。ですが、健常者の負担が高くてもイザと言う時に
安心して医者に掛かれる制度……自分も欝病で「自立支
援医療補助」制度の恩恵を与かっており、欝病に関して
の自己負担は3割負担から1割負担で済んでいます。
やはり……こうした制度があると有り難いなぁ……と感
じるのが実感です。

自分がこの映画を観ていて思ったのは、日々増え続ける
健康保険制度の3割負担もあるんですが、それに見合っ
たサービスを医療側がしているのか?と言う事でした。
3割負担でも、患者が満足が行く治療が受けられれば、
それに文句を言う人は居なくなると思うのです。

様々な問題提起を含んだ本作品ですが、健康な人もそう
で無い人も一度健康保険制度や福祉制度のあり方を考え
る上で一度は観ておくべき作品であると考えたのであり
ました。

「裁判映画友の会」広報担当 大倉 里司
(2007年9月2日日比谷シャンテにて鑑賞)

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