(赦)『ボルベール〜帰郷』

失業中の夫と、15歳の娘を持つライムンダ(ペネロペ・ク
ルス姐さん)は、気性は激しいが明るくたくましい女性。
そんなライムンダに、ある日2つの死が降りかかる。娘のパ
ウラが「本当の親じゃないから」と関係を迫ってきた父親を、
包丁で刺し殺してしまったのだ。パウラを守るため、空き家
となっていた隣のレストランの冷凍庫に、夫の死体をひとま
ず隠すライムンダ。そしてその夜、ライムンダの両親が死ん
だ大火事のショックから病気がちになっていた最愛の伯母も、
息をひきとった。美容師である姉のソーレ(ローラ・ドゥエ
ニャス姐さん)の家を訪ねたライムンダは、そこで死んだ母
の懐かしい匂いを感じる。姉ソーレの部屋に母の遺した衣類
があったからだ。懐かしくやるせない想いを抱え、借り受け
てしまったレストランで、昔、母に教わった歌「ボルベール
(帰郷の意)」を歌うライムンダ。愛する人の帰りを願うそ
の歌に、生前の母と分かり合えなかった思い出が去来し、そ
して一瞬窓の外に亡くなったはずの母(カルメン・マウラ姐
さん)の面影を見たのだが……。

ペドロ・アルモドヴァルの「女性三部作」の内、一番好きな
のがこの作品。自分には『オール・アバウト・マイ・マザー』
は、アルモドヴァル作品の「くどさ」が前面に出てしまい鬱陶
しく、続いての『トーク・トゥ・ハー』に関しては、無理して
作っているなぁ……と言う不自然さを拭う事が出来ませんで
した。その点、本作品に関しては極めて据わりが良いんです
ね。女ばかり出てきて暑苦しかったらどうしようとも、作り
込みし過ぎて無理している感があったらと言う懸念も杞憂に
終わりました。テーマとしてはかなりヘヴィーな内容を含ん
でおりますが観終わった後の印象は非常に後味が宜しいんです。

何故かと申しますと、ライムンダが途中からレストランの運
営に乗り出すのですが、そのシーンが非常に活気に溢れてい
るからに他なりません。ややもするとだらけ気味の中盤を映
画撮影クルーが乗り込んだ事により、映画自体も生気を帯び
てくるのですが……この「映画」が『トーク・トゥ・ハー』
では完成した映画として劇中劇として扱われ、続いての『バ
ッド・エデュケーション』では、撮影中の映画の現場が舞台
となり、今回の『ボルベール〜帰郷』では、グッと控えめに
物言わぬ映画の撮影クルーだけが登場してくるんですけれど、
自分の勝手な推理なんですけれども、「完成された映画」と
言うのは、観客が観るものであり、これは映画を観ている観
客に対しての「愛」とも取れなくはありません。次いで『バ
ッド・エデュケーション』では、完成された映画では無く、
それを作っている劇中劇での監督&出演者が登場致します。
これは、観客と製作者側の丁度中間地点に居るものであり、
監督のアルモドヴァルが立っている位置も此処に当ります。
で、今回の『ボルベール〜帰郷』では、物言わぬ映画の撮影
スタッフ……言うなれば、完全な裏方さんなんですけれども、
今回は彼等に捧げられた、アルモドヴァルならではの「照れ
隠しの愛」と言う事も考えられなくはありません。主人公の
ライムンダが生活が出来るようになったのも、物言わぬ映画
の撮影スタッフが来たからであり、直接的ではないものの、
ヒロインのライムンダを監督自身の立場に反映させてみると、
やっぱり映画によって生きがいを見出し生かされていると言
う感謝の念を示したものではないのかなぁ……と思ったので
すね。真っ当に見れば女性のみならず全ての人に向けられた
人生賛歌と取るのが妥当でしょうが、敢えて思いつきで一言
入れてみた次第です。

「初代大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2007年7月7日TOHOシネマズ六本木ヒルズにて鑑賞)

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