(生)『アリ・ザウア』

今回の東京国際映画祭での貴方にとっての最大の収穫は?と聞かれた場合には、
『アモーレス・ペロス』と答えますが……では?御薦め出来るのは?と聞かれ
た場合、この『アリ・ザウア』か『吠える犬は噛まない』に為ります。
「面白さ」では、『吠える犬は噛まない』が最高の出来栄えだし、「感動作」
では、この『アリ・ザウア』が屈指の出来栄えなんです。

御伽話と共に絵が記され……その語りが、一人のストリート・チルドレンの少年
のインタビューに被さっていく。TVのインタビューを受けているのは、この映
画の題名にもなった、アリ・ザウア……彼はインタビューの中で「このまま家に
居たら母親に内臓を売られる……それを怖れて逃げてきた」と語っていました。
その、アリをリーダーとしてクイッタ、オマール、ブーブカーの4人の少年達は、
結束する他派に対立しつつ……何とか生き延びてきたが、その抗争の中、アリは
死んでしまう。残った3人は、自分達だけでアリの遺体を葬ることを決意する。
そして、彼等は船に住んでいる老人の協力を得て、実現に近づけていく……。

監督がモロッコの新鋭ナビーユ・アユーシュ様。現在31歳の御方ですが……
非常に手堅い映画作りに感嘆致しました。冒頭のナレーションから、少年のイ
ンタビューに繋げて……アッサリと主役と思っていたアリくんを殺して……ど
うするんだ?と懸念しましたが、杞憂に終りました。とにかく「画に力」があ
るんです。どの角度にしたらそうなるんだ?と御思いでしょうが……自分でも
説明出来ません。ごく当たり前の角度の様に見せながらも、歴然とした違いが
あるんです。

何せ、ガキんちょが大嫌いで、しかも小汚いストリート・チルドレン……早い
話がギャングの温床となる土壌でしょう?(偏見)どこにも泣ける要素が無い
筈で生理的に拒否反応を示す筈なんですが……今回はそれが起きなかった希有
な傑作なんです。(断言!)

アユーシュ監督をはじめとして、スタッフの方々、出演者の方々には、「罪を
憎んで、人を憎まず」的な思想があり……社会現象として厳しく描きながら、
決して貶しめる視線では無いんです。激しい現実がありながらも懸命に生きよ
うとする少年達の言動に時にムッと来て……苛つきながらも泣けてしまうんで
す。

特に凄いと思ったのが……反対側のリーダーなんですよねぇ。彼は顔に傷を受
けていて、言葉が喋れません。でも、身内の病人には甲斐甲斐しく世話を焼く
優しさがあるんです。(涙)実際の話、こうした荒んだ生活なり、他人から蔑視
された侭の生活だと「自分が生き残る為」に誰が味方で………誰が敵か?と言
う判断を即座に出来ないと生きていけませんし、余程鈍く無い限り……そうし
た能力は磨かれていくものなんです。そうした言動を少年達は見ていて、この
人だったら大丈夫と身を寄せる様は滂沱の涙………。

時折織り込まれるファンタジックな絵も、「現実から逃避」することなく、あく
まで「願い」の象徴として組み込まれている志の高さ!

映画祭ベースでしか御目に掛かれないと思いますが、上映の際は是非観て欲しい
一本です。m(__)m

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2000年11月4日 東京国際映画祭 シネマプリズムにて鑑賞 シアター・コクーン)

BGM:ファイルーズ『私を覚えていますか』

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