(業)『アモーレス・ペロス』

(前説)

2000年度東京国際映画祭コンペティション部門でグランプリ並びに最優秀
監督賞(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ様)を受賞した作品。監督
の名前が長いんです。(^^ゞ

この映画祭に参加したのは、1987年の第2回からでして、特に凄かった記
憶があるのは、93年と97年なんです。殊に93年のインターナショナル・
コンペティション部門では『青い凧』が東京グランプリを受賞し、同年の最優
秀監督賞は、テイラー・ハックフォード監督の最高傑作と信じて疑わない『ブ
ラッド・イン・ブラッド・アウト』そして、最優秀芸術貢献賞には、ヴィンセ
ント・ウォード監督の『心の地図』と言う自分の生涯のベスト10入りしてし
まう作品が二本も入っていた記念すべき年でありました。

さて……今年のコンペ作品を全作品観て居ないのですが、観た中では、これは
グランプリ候補になるだろうなぁ……と思っていたら取ってしまった……。
ですが、この作品が断然優れている……とは、自分は思わないんです。93年
の『ブラッド・イン・ブラッド・アウト』の方が余程凄いんです。この『アモ
ーレス・ペロス』を見た後でも、通常通り立ち上がって、質問も出来ましたが、
もし仮に『ブラッド・イン・ブラッド・アウト』の後でしたら……未だに覚え
ているんですが、3時間は放心状態でロクに応答出来なかったのですねぇ……。

そうは言っても、この『アモーレス・ペロス』が、優れている……と言うかメ
キシコ的な「炎の情念」に溢れている作品であることは間違い無いのです。

(物語)

第一話 『オクタビオ』

自動車を運転していたのは、このパートの主人公のオクタビオ(ガエル・ガルシ
ア・ベルナル様)彼は、兄嫁夫妻とその幼子、そしてオクタビオの母親の5人で
アパート暮らしをしていた。兄はオクタビオが密かに慕っている兄嫁のスサーナ
(バネッサ・バウチェ御嬢様)に暴力を振るっており、見るに見かねたオクタビ
オはスサーナと幼子と共に駆け落ちをすることを望んでいた。が、金が無い(涙)
金蔓はひょんなことから飛び込んできた……兄が飼っている黒犬コフィが、実は
闘犬の素質があることに気が付いたオクタビオは、そのコフィを使って大金を手
に入れるが……

第二話 『バレリアとダニエル』

オクタビオが運転していた車に激突されたのが、売れっ子モデルのバレリア(ゴ
ヤ・トレド御嬢様)彼女と編集者の愛人のダニエル(アルバロ・ゲレロ様)との
新居のマンションでの生活を綴るパート。

第三話 『グスタボとチーボ』

反政府運動に荷担し大学教授の地位と妻と娘を捨てた世捨て人のエル・チーボ
(エミリオ・エチェバリア様)の生業は、廃棄品のリサイクルと………殺人請
け負い業。かつて彼を捕えた悪徳刑事からの依頼で殺人を請け負っていたが……
あるビジネスマンからパートナーの殺害を委託される。そして、かつての妻の
死により……娘にどうしても逢いたい衝動が募るばかりでありました。

(感想)

二話目のパートが、再見してハッキリしたのですが、一番弱いんです。映画の
中でそれぞれの人間があちらこちらに顔を出す設定なのですが、この二人だけ
はテレビのブラウン管と広告媒体を通しての接触でしか無かった為にそうなっ
てしまった感もありますし、また……余りこの話が個人的に好きでは無いんで
すね。m(__)m

一回目観たときは、第三話のパートのエル・チーボの話が一番良いなぁ……と
感じたんですよ。かつての闘士が、今は世捨て人となって……会ってはならな
い娘と接触しようとする話なんです。そして、第一話目にて準主役だった黒犬
のコフィが果たす役割が大きいんですね。

この映画の中で一つの台詞があります「人間の立てた計画を神は見て笑う」と。
この台詞通りに動くのが、準主役の黒犬のコフィなんです。最初は、箱入り犬
と言うか家から出して貰えない存在なんですが……ふと、家を抜け出し、現役
バリバリの闘犬と闘って、最初は逃げているけれども逆転勝ちをしてしまい、
無敗なんです。その犬が……事故によって、エル・チーボに救出されて、ヤレ
ヤレと思っていた時に起こる「悲劇」このシーンを観て……息が止まりました。
「血」……そして「炎」に彩られた「情念」が……人間の行なった行為により、
在らぬ方向に芽を吹き、「犬」と言う存在をして語らしめた名シーンです。

二回目観たときに、実はこの映画を愛するのは、一重にこれなんだなぁ……と
思ったのが実は一話目の『オクタビオ』に因るものが大きいと判ったんです。
彼……オクタビオを演じたガエル・ガルシア・ベルナル様の無垢な眼が素晴ら
しいんです。彼が兄嫁を見て悪戯っぽく微笑む眼には、『シン・レッド・ライ
ン』でのウィット君と同じで「邪気」と言うものがまるでありません(断言!)
そうした彼が……段々と変貌していく様良かれと思ってやったことが全て裏目
に出てしまう悲劇。最後のパートでも、チラリと彼は姿を見せているんですが、
交通事故の為、頭は全部剃りあげ……眼は完全に光を失っているんですね(涙)

この映画では、3組が3組とも、悲劇的な終わり方をしているんですが……観
たあとの印象はカラリとしているんです。それは、突き放した感じでは無く、
ディエゴ・ベラスケス師の絵画を観たときに受ける「栄光には栄光を……没落
には没落を……共に歩みましょう」と言う作り手の決意を感じるからなんです。

万人には薦められる映画では無いでしょうが、「情念たぎる映画」を望んでい
る人には自信を持って御薦め出来る映画です。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2000年11月1日 東京国際映画祭 コンペティションにて観賞 渋谷ジョイシネマ)
(2000年11月5日 東京国際映画祭 コンペティションにて観賞 渋谷公会堂)

BGM:高橋竹山『津軽じょんがら節』(旧節)
BGM:高橋竹山『津軽じょんがら節』(中節)
BGM:高橋竹山『津軽じょんがら節』(新節)

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