(秘)『カメレオン』

ウェールズ語による映画では、以前東京ファンタスティック映画祭等で上映さ
れた『ワン・フル・ムーン』と言う映画がありまして、静かで詩的な映画だっ
たと言う印象が強いのです。今回の『カメレオン』は、監督のケリー・シャー
ロック様の故郷ラネッリで語られている実話を元にして作られた映画と言うこ
とです。

時代は1942年、英国軍から脱走したデルミー・ディヴィス(アナイリン・
ヒューズ様)は、憲兵の目を逃れて家族が住んでいる6軒長屋の屋根裏に身を
潜める……住人の誰もが、実はデルミーが屋根裏に住んでいることに気がつい
ているが、その秘密を暴きたてようとする者はなく、秘密を共有することによ
って一つの共同体が形成されてゆく……デルミーもまた、階下に住んでいる住
人との交流と彼等にも隠された「傷」があることを知り……次第に戦争後遺症
から脱却していこうとするが……

テーマ自体は良いのですよ。脱走兵が隠れる場所を求めて唯一の拠り所である
長屋の屋根裏に住んでいるという設定……そして、同じく戦争後遺症に苦しん
だデビッドと言う老人(フィリップ・ヒューズ様)の力を借りて何とか克服し
ようとする姿もかなり好きな部類ではあるのですが……この映画の最大の欠点
は、「舞台」となる6軒長屋の何処に誰が住んでいるのか?が最初から解らな
いところにあるんです。

最初の方に出てくる薬屋夫婦のエピソードにしても、同じ長屋に住んでいたと
言うことを知るには長い時間が経った後ですし、それが解らないと……何故、
その夫婦がデルミーの母を庇っていたのかが見えてこないのが痛い。唯一ハッ
キリするのは、母と弟が住んでいるフラットだけですが……他の住人の部屋が
どれもこれも似た様な作りでして、判別しにくいのも解り辛い原因となってお
ります。

そうしたまま、話しが進行していくものですから、随分と良いエピソードがあ
るのですが、面として結実せずに点と点との接点を引いた線留まりで収まって
しまうんですね。これが実に惜しい。

6軒の長屋全部に住人を住まわせる必要があったのだろうか?精々3家族留ま
りにしておいて、そちらの方を重点的に描けば小ぶりながらも面として結実し
た映画になった気がするので残念です。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2000年4月4日 ケルティック・フィルム・フェスト 草月ホールにて鑑賞)

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