(人)『チェックポイント』

現在、広大な世界各地で数々の紛争が起きておりますが、この『チェックポイ
ント』は、ロシアの中央部であるチェチェンを思わせるイスラム教の地域が舞
台となっております。

製作が98年ということなので、真似した訳ではないのでしょうが、非常に
『シン・レッド・ライン』と似ている部分が多いのですね。

広大で美しい山々を見ながら兵士のモノローグが始まります……。
「こんなに美しい山なのに、僕たちはこの美しさを感じることが無い。住民達
に取っては、我々は余所から来た厄介ものなのだ………」と。まるで、『シン
・レッド・ライン』での、ドールくんとウィット君を足して二で割った様な語
り口です。

二人の兵士が、人影が無い村に偵察に訪れ……家の中に入ると地雷の信管をハ
ンマーで叩く少年が居た。慌てて逃げる二人の兵士……
地雷が爆発し、炎上する家屋……その音を聞きつけた村人の女達が兵士に群が
り、もみ合いとなり現地の警官と母親らしき女が撃たれてしまう……やがて、
道路の側に検問所を作って日々を送るのですが……住民の憎しみは、段々と高
まり……哀しい結末が………と言う話。

この映画の優れたところは、明るい筋運びをするところなんです。それには、
マクロな視点で観れば、「抑圧側」であり「加害者側」のロシアの兵士達のキ
ャラクターの描き込みが大きくモノを言っているんですね。

ごく簡単にですが、彼等のスケッチを描いてみました。

映画祭の公式カタログには、兵士たちの本名でしか表記されて居ないのが惜し
いのですけれども、映画の最中では殆どニックネームで呼び合っている間柄で
す。(^^)

モーチャは、車中で死んでいる女性の頭からヘッドフォンステレオを抜き取り、
バッハとかモーッアルトの様なクラッシック音楽ばかりを聴いている兵士。
でも、それが誰の曲か………と聞かれても「解らないけど聴いている」と飄々
と答えます。緑のバンダナを頭に巻いて、ノースリーブの迷彩服を着ていると
ころは、『プラトーン』のバーンズ曹長を彷彿とさせるんですね。(^^)

シェパード種の犬のカストロは、歴戦の兵士。唯一恐怖を感じない存在として
描かれております。

そして、一応主人公的な役割を果たすのが、『TRL』のファイフ伍長似のユ
リスト。彼は地元の少女マニマト御嬢様から、唯一好意を持たれるキャラクタ
ーの為、同僚から羨ましがれている存在でもあります。

何故、ユリスト=(法学者)かと言えば、戦争の是非について色々と考えてい
るからなのですね。ただ、それを『SPR』のアパム伍長の様にうだうだ言わ
ないところが、個人的にポイントが高いです。

そして………准尉も中々、良いキャラですが………美味しいところを全部持っ
て行っているのが、ねずみを肩に乗せているクリーナーと言う兵士。

何と!ねずみが狙撃され、「名誉の戦死」を遂げてしまうのですが、彼は独自
に小箱で棺桶を作って、その中にねずみを葬るのですね。しかも………棺を国
旗で丁寧に包んで埋葬してしまう。彼は、駐屯地の裏庭に赤い薔薇の花を栽培
し、狙撃の危険を省みず日々墓参りをするという愛すべきキャラクターの一人
です。

こうした兵士の顔が見えてくるからこそ、住民に取っては「軍隊」というモン
スター的存在でも、個々に分けてみれば、みんな「ごく普通の青年」なんです
ね……

対して村人も、軍隊が進駐さえしなければ、ごくごく普通の生活を送って行っ
た筈なんです。

個人同士では何の憎しみも持っていなくても、「任務」の為に行い、ふとした
歪みが悲劇を生む構図を鮮やかに描き出しております。

この作品は恐らく、映画祭のみの上映でしょうが、それが惜しまれる佳作です。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(11月5日第12回東京国際映画祭シネマプリズムにて鑑賞)

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