(悲)『クロノス』

初めてこの映画と出会ったのが、88年のメキシコ映画祭でした。それ以来独立
した感想をアップすることは無かったのですが、本日アップする事に致します。

「クロノス」とは、「時」を支配する神。この映画の中では中世にメキシコへ逃れて
きた一人の錬金術師が、天才的時計職人に命じて作らせた「不老不死」の装置
の名前。

冒頭のシーンでそれが示され、メキシコで古美術商を営むとある老人が、ふと
した切っ掛けで「クロノス」を発見してしまう処から悲劇は始まる。

「不老不死」は、誰もが一度は望むところ。だが、それと引き換えにとある
「代償」を支払わなくては為らない。

それは、「人の生き血を飲むこと−−−−−−」

これはどの吸血鬼映画でも同じなのですが、ただ一つ大きく異なる点は、
この主人公の老人が「為りたくて為った訳では無い」と言う点なのです。
人としての倫理観を持ちながら、なお且つ生き長らえなくては為らない悲劇。

「クロノス」に因って、吸血鬼として「異形の民」となってしまった者への慈しみ
と哀しみを存分にこの映画は描き切っております。

「為りたくて為った訳では無い」一方で、その存在を知り「どうしても欲しい」
者がおります。

巨万の富は在るものの、蝕む病魔によって、度重なる手術を行い内臓の
半分を摘出してしまった男とその手下。彼等が執拗に「クロノス」奪還工作
を始めるのです。

「この世に在っては為らない物」を巡っての死闘と共に描き出されるのが、
主人公を取り巻く家族との絆であり、愛情です。

再見してみて思ったのですが、この映画の完成度の高さは一重に、この
家族関係のドラマを十二分に描き出していることであると感じました。

僅か1時間30分の映画ですが、セリフ一つ、一つの裏に込められた「愛」
それに無駄な描写がどれ一つたりとも無い、奥行きのある演出。

孫娘(実に可愛いんです)が、祖父を思いやる心境。また祖父が孫娘
を思いやり、妻のことを考える悲痛さ。

そして、「気高さ」に満ちた終焉。

その意味では、『デッド・ゾーン』、『キャリー』、『戦慄の絆』と同格に僕は
見なしている作品です。

監督は『ミミック』で聖林デビューを果たした、ギジェルモ・デル・トロ

元特撮マンだけあって、「ミミック」内部の歯車のシーン等は本当に凝った
作り方をしておりますし、室内装飾における「美意識」の高さも外すことは
出来ません。

現在、ビデオレンタルされて間も無いので、恐らくどこのビデオ屋にも置
いてある作品だと思います。

この手の作品は、ある内が勝負。何を借りようかと迷った際には是非とも
この『クロノス』を候補の一つとして選んで頂ければ幸いです。

本当にこの映画こそ、ホラー映画は低級だと考えている人に見せて上げ
たい程に「完成度」の高い一級品です。

「大河ロマンを愛する会」 大倉 里司(HCD05016@nifty-serve.or.jp)

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