(恐)『下女』

先日、赤坂の国際交流フォーラムで開催された、第二回アジア・フィルム
フェスティヴァル97に行って参りました。

その特集の一つとして、「蘇るアジア映画クラッシックス」と言う企画があり、
韓国のブニュエル、あるいは「魔性の怪物」こと金綺泳(キム・ギヨン)監督
の最高傑作と名高い『下女』を鑑賞致しました。

一言で言えば、この映画は、「悪意のタペストリー」ですね。
怨念・嫉妬・憎悪・不信・希望・羨望・情念の糸が縦にも横にも緊密に結び
あって一枚の見事な作品に仕上げております。

では、簡単に紹介を。

キム・ジンギュ演じる作曲家は、妻と二人の子を持って大変幸せな日々を
送っておりました。作曲活動だけでは食えないので、奥様は家でミシン掛け
の内職をして、旦那様の方はと言えば、とある工場のコーラス部で顧問を
務め日銭を稼ぐ毎日。

ピアノも買ったし、今住んでいる家も手狭になったので、新居を買うかと
言う話しになりましたが、新居の方は結構広くて、内職の片手間では到底
維持できない状況が続いておりました。

そこで、コーラス部の一人の女工のつてで、一人の女中を雇いいれることに
したのですが…………。

この女中を演じた李恩心様(イ・ウンシム)が素晴らしい。
これは幾ら書いても誉め足りない程です。工場の寮で最初に登場するシーン
その一瞬で「純粋な悪意」を感じさせるその存在感。
煙草を吸っている手つきの嫌らしさ。

役柄と違って彼女自身は、きっと優れた知性と感性、そして類希なる観察眼
をお持ちの方と推察しました。(^^)
でなければ、ラストに見せる細やかな心情の変化は到底演じられないもの
です。逆に言えば、こうして李恩心様のことをフォローしなくてはならない程
に真に迫っているのです。

彼女が家に入って最初に行う鼠殺しのシーンですが、バーベット・シュローダー
監督の『ルームメイト』で、ジェニファー・ジェイソン・リー演じるヒドラが
○を投げ捨てるシーンと同じ位戦慄を覚えました。

このシーン一つだけでも、相手の行っていることが理解できない怖さを醸し出
すことに成功していたと思います。

あと、技法としても大変に優れていて、作りかけの新居を映すところでは、
階段に材木などが散乱していて、新居に移住した後はそれが奇麗に取り払
われている。
一つのセットと二つのカットだけで、時間の経過を実に巧みに演出できて
おります。

金綺泳(キム・ギヨン)監督は、元々舞台の方にも造詣が深いらしく、
舞台劇としても上演できそうな素材を実に「映画的」に構成しなおしており
実に素晴らしい。

紛れも無く、『下女』は傑作です。

大倉 里司(HCD05016@nifty.ne.jp)

 

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