(生)『花よりもなほ』

時は元禄15年、今をさかのぼること300年。仇討ちに藩
が賞金を出していた時代。父の仇討ちのために信州松本から
江戸に出てきた若い武士、青木宗左衛門(岡田准一さま)。
広い江戸で父の仇を探すこの男、実は剣の腕がまるで駄目。
そんな中「仇を見つけた」と言っては、宗左の金で風呂屋や
飲み屋に連れ回す長屋仲間の貞四郎(古田新太さま)のせい
で、生活は困窮を極める一方。仕方が無いので寺子屋を開
き、手習い算術を教えながら暮らす宗左だが、彼にも日々
ちょっとした楽しみがあった。それは向かいに住む美しい
子連れの未亡人、おさえ(宮沢りえ御嬢様)の姿を見る事。
そんなある日、。「お父上の人生が宗左さんに残したものが
憎しみだけだとしたら、寂しすぎます……」とおさえが発し
た一言により、仇討ちをするべきか、果たしてしないべき
なのか?宗佐の心は乱れるのでありました……。

まず冒頭のシーンで真っ黒なバックに劇画調の吹き出しが入
り、時代背景がサラリと説明されます。そして何とファース
ト・カットで出てくるのはキム兄やんこと木村祐一さま。
これでこの映画の方向性を定めることに成功しております。
どう考えてもサスペンスフルな映画ではありえない展開で
あり、人情噺かなぁ……と予感は確信に変わるんですねぇ。

さて、元禄15年と言えば言わずと知れた赤穂浪士と忠臣蔵
ですが、その討ち入り前日談も所々に挿入しながら展開され
るのは、「復讐して何になるのか?」と言う無常感なんです
ねぇ……。とは言え、そこは説教臭さを極力配し、立川談志
師匠仰るところの「落語とは人間の業の肯定である」を体現
させたような貧乏長屋での日々の生活から次第に滲み出して
くるのが素晴らしい。

この貧乏臭い長屋なんですが、よーく見ると大変な力作でし
て、『羅生門』等に携わった美術スタッフの馬場正男さまが
作られており、大変な金が掛かっているよなぁ……と逆に
その汚れっぷりに感心してしまう程。

脚本も担当された是枝裕和監督なんですが、これだけの人数
を配しながら誰一人、顔の見えてこない人が居ないと言う人
物描写が圧巻。機会があれば仕官を狙っている平野次郎左衛
門には今、飛ぶ鳥落とす勢いの香川照之さま、父親の仇の筈
なのに、今はどうみても悪人には見えない金沢十兵衛には
浅野忠信さま。信州松本から来た叔父である青木正三郎には
石橋蓮司さま。喰えない大家伊勢勘を演じたのは國村隼さま。
そして、吉原から身請けされてその妻となったおりょうを演
じるのが夏川結衣御嬢様。実は彼女の幼馴染だった世捨て人
のそで吉を演じているのが加瀬亮さま。そで吉を巡って、お
りょうを快く思っていない、おのぶ役には田畑智子御嬢様。

普通これだけの人数が出てくれば、どこかしら弱い箇所が出
てくるものなんですが、今回の映画にはそれが無いんです。
殊にそで吉とおりょうが絡んでくる噺は、お互いに「生きて
いかねば為らない哀しみ」を抱えており、ホンワカとした本
作にピリリとした辛味が加わり絶品の出来栄え。

そして……最後に「アッ」と驚く仕掛けが用意されているん
ですが、ちょっとだけネタを明かしてしまうとこの映画って
『ハムレット』の大江戸バージョンだったんですねぇ!
それを考えると綺麗に「オチ」が付く次第。(未見の方が居
るのでここ迄。見終わって再構成するとアッ!と唸りますよ)

東映は『明日の記憶』、東宝は『嫌われ松子の一生』、そして
松竹はこの『花よりもなほ』と一気に纏めて水準が高い作品が
並んだ感じでありますなぁ……。

2006年度は間違いなく映画の当り年で御座います。

初代「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2006年6月3日 ワーナーマイカルシネマズ市川妙典にて鑑賞)

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