(女)『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』

この『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』は、観たあと思わず溜息をつい
てしまった希有な一本です。何と言えば良いのかなぁ……伊東深水画伯の美人画
を100点連続で見せられたような、日本で言えば「白粉の匂い」……蒸せかえ
るようなプアゾンの匂いに溢れています。

ほんとうに「濃い」です……。

イギリス音楽界最高のチェリストと謳われたジャクリーヌ・デュ・プレ。
ですが……幼少期の頃はフルート奏者である姉ヒラリーの方が才能があると思
われていた。だが……しかし、妹が成長するに従って二人の間では、憎しみと
愛情が交錯する奇妙な関係が続いていくことになってゆく。それは、あたかも
ジャクリーヌがチェロと言う楽器を愛し、そして憎んでいるのと同じ様な姿で
あったかも知れない………
やがて、二人はそれぞれに違った道を歩んでゆく……姉ヒラリーは愛する男
キーファーと共に田舎で平凡な女として暮らし、妹の方はダニエル・バレン
ボイムと共に結婚し音楽家として頂点を目指す様になる。が……二人が見た
「真実」とは如何なるものであったのか……

この映画は、姉のヒラリーが書いた本を基に作られております。
そのせいもあってか、妹のジャクリーヌを演じたエミリー・ワトソン御嬢様と
ヒラリーを演じたレイチェル・グリフィス御嬢様が米国アカデミー賞でそれぞ
れに主演&助演女優賞のダブルノミネートされたことが何ら不自然に感じない
程、調和と対立の間が上手く取れていることに驚きました。

自分のことを例に出して恐縮なのですが、実は姉と妹に挟まれた長男でして、
ここまでの天才的な音楽一家では無いにしても、普通の姉妹関係だったら肌で
知り尽くしているんですよ……ですから、この映画の不満点と言えばその長男
ピエール(ルペルト・ベニー・ジョーンズ様)が何処に位置するのか?(末っ
子なのか?間に挟まれたのかが判らない)のが難点でしたが……まあ、大きな
傷には為っておりません。でも、彼の出番を多くしたら満点をあげます。

それと凄いのが、ジャクリーヌが実は、チェロを愛しながらも憎んでいたと言
うのがハッキリと判る点なんです。彼女はバレンボイム(ジェイムズ・フレイ
ン様)にこう呟きます……「もし、わたしがチェロを弾けなくなっても愛して
くれるの?」と………これは不味い(笑)確かに欧州で上映反対デモが起きるの
も無理は無い(笑)だって、まだ生きている人ですよ(爆)

でもねぇ、何となく判るんですね「愛しながら憎んでいる」って…ジャクリー
ヌがヒラリーの家に押しかけ、彼女の夫であるキーファー(デビッド・モリシー様)
と寝ようとするのも判るんです……常に誰かの愛を求めつつ、一人では満足出来
ない………と言って金で買うには安直。誰かのものを分けてこそ価値がある……
悪いことだとは百も承知ですがそれでも「わたしの声を聞いて欲しい!貴女、姉
さんでしょ?」と自分でも義理の兄がタイプだったらそう言うかも………(ちょっ
と違うかなぁ?)情緒不安定でしかも情熱的なタイプ………でも、彼女には才能
と努力があったのですねぇ………だから悲惨とも言えるのですが。(涙)
栄光があれば、それだけ転落するのも悲惨さが増す………チェロを弾いていると
きだけが評価され、パーティの席では「言語の障壁」が待っていた………コンサ
ート会場は、王座でもあり同時に煉獄。

申し遅れましたが、この映画、二人の演技の調和の他に美術と衣装も完璧です。
二部構成になっているのですが………後半でジャクリーヌの目から見た真実が語
られます。その時のコンサート会場が最初はベルリン。このベルリンの会場と、
そして、生理の血に彩られたような現役最後の会場の壁は、冗談抜きで震えが来ました。

演出に最初は冗長なところを感じたのですね。浜辺のシーンでの会話は不要です。
これは「大丈夫よ………」だけで終わらせて、後で回想を繋げていくほうが自分的には
良かったなぁ………と思ったのです。でも、ラストに見事に円環が閉じる構成には
「大河浪漫の王道」を見ましたので許します。(笑)

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2000年3月5日本八幡ヴァージンシネマズ3にて鑑賞)

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