(灯)『聖なる嘘つき〜その名はジェイコブ』

この映画が、2000年の正月映画として公開されてしまったことは、或る意
味とても不幸なことかも知れません。ホロコーストの最中に「嘘」を突き通し
ていくという展開からして『ライフ・イズ・ビューティフル』と比較されてし
まうからなのです。

『プライベート・ライアン』と『シン・レッド・ライン』程には、世界観が違
わないけれども「嘘を突き通す」目的が、かなり違うのですね。

結論から先に言えば、出来の良さでは『ライフ・イズ・ビューティフル』の方
に軍配が上がりますが………どちらが好きか?と言えば文句無しにこの『聖な
る嘘つき〜その名はジェイコブ』の方ですね。(^^)

第二次大戦末期、ポーランドのユダヤ人ゲットーに収容されている元パン屋の
ジェイコブ(ロビン・ウィリアムズ様)は、自慢できることと言えばジャムパ
ンを発明したと考えていること位。風に飛ばされてゲットーの外側から舞い込
んできた新聞を追い求め、遂に鉄条網の側まで来てしまう。監視兵にあえなく
見つかり司令部の元に………そこで、彼はロシア軍があと400キロの地点ま
で進軍しているとの報をラジオで聞く………。その事実を友人に話したところ
「明るいニュース」だと言うことで、たちまちにして噂はゲットー内に広まった。
次のニュースを求める人々………だが、ジェイコブをはじめ、外部との接触は
それだけで「死」に値する重罪だった………。在りもしないラジオから発せら
れるニュースを仕方なくジェイコブは人々に伝えていくが……

宣伝にある様に「嘘から出た奇跡」とは、ぼくは呼びたく無いのですよ(涙)
ジェイコブが何故嘘を付き通さなければ為らなかったか?それは、拾わざるを
得なかった少女ミーナ(ハンナ・テイラー・ゴードン御嬢様)の為だけでは無
いのです。『ライフ・イズ・ビューティフル』をぼくが余り好きで無かった理
由の一つとして「息子の為だけに」全ての人々を犠牲にした点なんです。グイ
ドは、「息子ジョズエ」を主目的にしながらも、本当のところは自分を誤魔化
していたのでは?と今ではそう考えるようになりました。m(__)m

但し、このジェイコブは、明らかに「自分の不安感を隠す為」であることに自
覚を持っているのです。その上で友人や隣人に少しでも足しになるのだったら……
という余得的なものを込めて嘘を付き通しているのですね。(涙)
愛する妻も失い……残されたものは何だろう?と考え、ジェイコブもかなり迷う
のですが……「希望」を与えようとして死んでしまうハーシェル(マシュー・
カソヴィッツ様)の死に様を見て苦悩し、只一人真相を知るキルシュバウム医師
(アーミン・ミューラー・スタール様)の言葉……「君のラジオ放送がはじまっ
てからは自殺者が居なくなった」と聞いて「演じる」ことに命を賭けてゆく心境
の変化は涙無くしては観られません。

それに……ゲットー内での「人間不信」の様子も少ない描写ながらも的確に織り
込まれております。

話しの展開に「おや?」と思う点が多く、映画としては座りが悪い感じがします
けれども、それを補って余りあるのが名優達の素晴らしいまでの共演。

ロビン・ウィリアムズ様は、本当に沈痛な表情とささやかな喜びを見事に使い分
けており、『クアトロ・ディアス』で映画を引き締めたアラン・アーキン様、元
ボクサーの憎めない好青年ミーシャには、新鋭リーブ・シュライバー様。ジェイ
コブの友人の床屋で、ジェイコブの危機を救う為にささやかながらも命を賭けた
行動をするコワルスキーにはボブ・バラバン様(今度のティム・ロビンス監督作
『Cradle Will Rock』にも出演しているとか)文句無しの名演。

そして……世界一の心臓外科医だったキルシュバウム医師を演じたのがアーミン・
ミューラー・スタール様。この御方抜きではこの映画の魅力は半減したことでしょ
う。殊にゲシュタポ高官とのやりとりは「まことの毒」全開\(^0^)/

『ライフ・イズ・ビューティフル』で満足頂けなかった方には、是非観て頂きた
い一本です。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2000年1月2日 シネマスクエアとうきゅうにて鑑賞)

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