(仏)『クンドゥン』

『クンドゥン』は、ぼくは好きですが……決して人には薦めない映画。

ダライ・ラマ十四世が見出されてから、やがて、法主になり……改革矢先に中
国人民解放軍に侵略され……印度に渡る迄を此処では描いております。

先ず、冒頭が素晴らしい……暗く、そして月の光を反射して放つ大海があって、
砂の曼荼羅に出てきた文様……その砂を吹き去った時……雪に覆われたヒマラ
ヤ山脈がそびえ立っている……解っているわぁ。流石は、スコセッシ……(*^_^*)
(ポッ)

曼荼羅の世界を一瞬の映像で表現したことは、本当に感涙もの。
つまり……ミクロであり、マクロをも共有した大宇宙なのですよ。

ただ……なまじっかスコセッシ監督が、そうした世界を肌で知っている為に説
明不足なのでは?と感じる箇所も多々あります。

チベットの八吉祥(ドュク(傘の文様)、トュン(法螺貝の文様)、セルニャ
(黄金の魚の文様)、ギャルツェン(旗の文様)、コルロ(法輪の文様)、
ベマ(蓮の花の文様)、ニ(結びの文様)、プンパ(花瓶の文様)のイメージ
があちら此方で出てくるのですが……何だろうと思った方も少なく無い筈。

これらは、幸福と繁栄の象徴なのですが……矢張り、紅旗の前には弱かった(涙)

しかしながらも……映画の中でも出てくるのですが、人民解放軍の将軍達が……
ダライ・ラマの夢の中で中国共産党が何故出来たのか?
を話す場面があり……その視点の公正さには、中々好感が持てます。

確かに毛沢東率いる人民解放軍は……政権を執る迄は、中華史上最も評判が良
い軍隊の一つだったのです。

と言うのは、腐敗した国民党の軍隊をも含め、今迄の軍隊は、通過した後は、
焼け跡しか残らず、略奪、暴行、拉致の数々……。
それを禁じ、厳罰に処し……使ったものは必ず返すと言う「革命の理想」を
やってこれたからこそ人民は着いてきたのですが……嗚呼、毛沢東は死ぬのが
二十年遅かった(涙)

「権力は腐敗する……絶対的権力は必ず腐敗する」との言葉もありますが、そ
れに脳閉塞も起こし、益々頑迷になってしまった訳なのです。
唯一の救いは、希代の大宰相、周 恩来が居たことだけでしょうか?

この映画には、そうした毛沢東のわからなさが、控えめですが良く描けており
ます。

最初に会った時は「母も仏教徒でした……(シミジミ)」と語っていた毛。
で、次の会見では「宗教は阿片ですぞ」と語る毛。

実は……これ両方とも本心なのです。映画を見ている限り権謀術数の限りだと
思われるかもしれませんが……彼の伝記を読むと、どうも、こうした矛盾した
言動が後半多く、それが故に人前には顔を出さなかったのです。

勿論、ダライ・ラマとしても当時はそんなことを知る筈は無く、交渉は訣別に
終わってしまうのですが……。

そして、印度に脱出し……未だ祖国の土を踏んでいない。


この映画を観て、ぼくが泣いてしまった箇所が3つあります。

一つ目は、宮殿の塀に立たされた罪人(足枷があるからそうでしょう)が、
望遠鏡にて自分を見ているダライ・ラマに気が付き、合掌の後に平伏する……
そして、それを受けてダライ・ラマも合掌をする。

別に彼は……恩赦を求めて合掌平伏をしたのでは無いのだと、ぼくは確信して
おります。

「わたくしの様なものでも……魂は救われるのでしょうか?お願いです。教え
て頂きたいのです」

「あなたが犯した罪は存じませんが……あなたの魂は御仏が救って下さるでし
ょう」

と言う言葉に出さない「魂の会話」を聴いた感じなのです。

二つ目は、一番解りやすいと思うのですが……北京から戻ったダライ・ラマ一
行は、とある民家で「人民解放軍万歳!」と言う張り札をしてある家を訪れま
す。そして、老婆に……今はどうですか……と尋ねる。
「わたくしですが……毛主席のお陰で大変に幸せです」(号泣)と語り、無言
の侭、哀しみを分かち合う……。

そして、三つ目は、印度に脱出している時、一人の農夫が白馬を持ってダライ
・ラマに献上するシーン。

これは、あなたの道は間違っていなかった……と言うことを示す意味と……
それでも、国境で観た幻視……血に塗れた馬……多大な犠牲。
でも、どんなに犠牲を払っても「ほとけの道」は通さなくは為らない……
その為にささやかながらも、授けてくださったものだと、ぼくは信じております。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司(HCD05016@nifty.ne.jp)
(7月24日 恵比寿ガーデンシネマ1にて鑑賞)

BGM:OST:『クンドゥン』より『インドへの脱出』

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