(母)『ママ』

東京国際映画祭で観ている本数が一日平均4本。感想を書く暇が欲しいと願う
今日この頃………。映画評は、観てから早めに書かないと「旬」を失ってしま
うと考えております。

愚痴はこの位にして、今年の東京国際映画祭の特色の一つは、「家族の絆」と
「ロシア物」が多い気がするんですね………『オネーギン』は18世紀露西亜
社交界を彩った悲恋物ですし、シネマ・プリズムではアレクサンドル・ドヴジ
ェンコ監督特集………『チェックポイント』はロシア兵と住民との対決を描い
たものらしいし………。

その「ロシア物」と「家族の絆」を一つに纏めてしまったのが今回紹介する
『ママ』と言う映画。監督は『タクシー・ブルース』等の撮影監督を務めたデ
ニス・イェフスティグネフ………今年39歳の中堅組でしょうか?

この映画は、実際に70年代に活躍した「7人のシメオン」と言う兄弟バンド
が引き起こしたハイジャック未遂事件をモテーフに描いた物語です。

ウクライナ地方を思わせる田舎の駅に赤軍兵士を乗せた一台の列車が通過する
ところから始まります。
勝てば官軍でしょうか………戦勝ムードに沸き返った兵士に花束を渡す村の女
性達………そんな中、一人の女性がふてぶてしく駅のベンチで横になっており
ました。手にはアコーディオンを持ち………誰かを待っているかの様でもあり、
そうでもなさそうでもある。
やはりアコーディオンを弾いて列車に乗っていた一人の赤軍兵士が、彼女を見
ると列車から降り立った………。

次のシーンでは、精神病院に収容されている息子に面会を求める一人の初老の
女性。今日は面会日では無いと断られる………。強引に院長に退院を申し出る
が………院長の方は許可出来ないと拒絶される。

この侭では埒が開かないと判断した彼女は、ロシア各地に散った7人の息子を
呼び出し、精神病院に収容されていた長男の救出作戦を指示するのでした。

この映画ですが、「あと一つ」の所で盛り上がらないと言う欠点はありますが、
それでも、精神病院に入院していて「精神異常」と見なされた長男の回想によ
って「何があったのか?」と言う過去の事情を描き出すことには成功しており
ます。

ただ、惜しいのはロシアではトップクラスの俳優さんを揃えた様ですが、集合
してからのキャラクターの書き分けが成功しているとは、残念ながら言えない
んですね。その為にママの強烈な個性が際立ってはいるのですが………
ハイジャック事件で各人がどのような「傷」を心に負ったのか?そして、その
後に地獄を背負って生きていかねば為らなかった………その事情が各人にある
筈なのに単一的になってしまったのは惜しいのです。

ただ………精神病患者となって、只一人「ママ」の影響から精神的に逃れられ
た長男による回想と言う手法の面白さと………再び、「一番大切だった場所に
戻る」と言う大河浪漫の王道を行っている為に、個人的には好きな作品なんで
すね。

一番イメージが近い作品は………『女優フランシス』か『終身犯』か?
彼女がこうなってしまったのも、同情できる過去ではありました。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(10月31日 第12回東京国際映画祭インターナショナルコンペティション)

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