(匠)『マラソン』

自閉症の為、5歳児並みの知能しかない20歳のチョウォン(チョ・スンウさま)が好きな
もの。それは、チョコパイとシマウマ、ジャージャー麺、そして走ること。
そんなチョウウォンの母親のキョンスク(キム・ミスク様)は片時も目が離せず、インタビ
ューで思わず出てしまった言葉が「息子よりも一日でも長く生きること」と語ってしまう。
身体能力には長けたことに気が付き、走ることにチョウォンが喜びを見出した母は、かつて
の有名ランナーで、今は飲んだくれのチョンウク(イ・ギヨンさま(*^^*)ポッ)にコーチを
依頼し、42.195キロのフルマラソン参加に向けトレーニングを開始した。母のキョンス
クとコーチのチョンウクはマラソン参加をめぐって対立を迎え、一方家庭でも、健常児である
弟のチュンウォン(ペク・ソンヒョンさま)が、障害を抱えた弟ばかりに愛情を注ぐ母親と
中々家に寄り付かない父(アン・ネサンさま)との間で愛情に飢え、非行に走る様になって
いった……。

監督のチョン・ユンチョルさまは、何とこれが長編映画デビュー作と言うことらしいですが、
あの衝撃的なデビュー作『ビヨンド・サイレンス』を御撮りになられたカロリーヌ・リンク
監督をも凌ぐ峻烈な才能を開花させております。一言で言えば、一つ一つのシーンに複合的
な意味を持たせて、尚且つそれが後半になって伏線となって活きてくる。並みの才能ではあ
りません。

具体的に言うならば、『奇跡の人』を思わせる雨中でのオープニング。ですが……雨の中
立ち尽くす5歳のチョウウォン少年。彼は壁を見つめております。何でもないコンクリート
の壁の中にシマウマの絵柄がクッキリと浮かび上がってくる描写で早くも落涙。
このファースト・シーンだけで、並々為らぬ出来の良さを直感いたしました。しかも、それ
が時と場所を変えて何度も登場する。
そして……ヘビー・スモーカーで飲んだくれのコーチも、ハッキリ言えば「社会」から道を
踏み外していた「無縁の民」でしたが、「無縁」故に言える言葉があります。
「チョウォンは母親が居ないと生きていけないと、貴女は言うけれども、チョウウォンを必要
としているのは貴女(つまりは母)ではないのか?」
「世間体」を気にしていたり、相手の事を慮って「遠慮」してしまう「社会の民」では、中々
言えない言葉の重み。そんな「無縁の民」のコーチも、袖触れ合えばでは無いですが、自分
なりにチョウォンの事を理解し、彼に判るような例え話で指導を行っていくのです。
そんな中、学校の教師から、「チョウォンは、コーチと出会ってから手を噛まなくなった」
と言われ、その後サポートとして一緒に走るのですが、彼の手首に触り心拍数を測定している
シーンと「手の噛み傷」そしてチョウォンが、アフリカのサバンナを走っていくような手で
道端に生えている稲科の植物に触れていくシーンを1カットの中に全て収めてしまっている!
これが「一つ一つのシーンに複合的な意味を持たせている」と言う一例でして、他にも数え
切れない位の秀逸な場面が登場して参ります。

この手の映画では、どうしても「母と息子の絆」ばかりを中心に描いてしまうのですが、この
作品では多忙を理由に家から遠ざかってしまう父。母親の愛を受けるのを諦め、一つの望みで
ある父の愛に縋ろうとする次男。最初は携帯のメールのみで御座いましたが、何と細やかな
演出であろうかと痛く共感してしまったのであります。

と……共感し、出来栄えの良さに感嘆しつつも、自分がこの映画にどっぷりと浸かりきれな
かった理由は、自分自身結婚も考えていなければ、叔父となった経験すら無い「擬似無縁」
であるからですが、こんな自分ですらオオッと思わせてしまった力量!完成度の高さでは
今年屈指の作品と断言してしまいましょう。推薦させて頂きます。

初代「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2005年7月6日 ワーナーマイカルシネマズ市川妙典にて鑑賞)

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