(幻)『オネーギン』

皆様方、御機嫌は如何でせうか?わたくし、久方ぶりに登場のマダム・DEEP
で御座ひます。

けふは、早朝から渋谷の東急本店前にずらりと女御が並んで賑やかで御座ひま
したわ。さふ、レイフ・ファインズ様の御挨拶があつたからでせう。(うつとり)

予定が立て込んでゐたことも御座ひませうが、このやうな優雅なる作品を夜の
回に廻さなひとやうのは、実に惜しひことでせう。

何故ならば、かうした前世紀の露西亜社交界を舞台にした壮大なる叙事詩であ
つたのならば、わたくしと致しましても、ラウンジにてシャンパンを注文し、
二階の桟敷席にて扇子を揺らしながら鑑賞に挑みたひからで御座ひませう。
(きつぱり)

それは兎も角と致しまして、これを二階の桟敷席にて鑑賞出来ましたことは、
わたくしに執りまして大きな喜びなのでせう。

物語は千八百二十年代の露西亜。気侭で享楽的でしかも優れた知性を持つてゐ
る没落貴族オネーギン様(レイフ・ファインズ様)は、都のペトロブルグ社交
界を追われ………伯父様の遺産相続の為、田舎に移り住むことになるので御座
ひます。

都の社交界の水に染まつたオネーギン様にとりまして、田舎での暮らしは退屈
そのもの。ですが、地元の名家レンスキー様(トビー・スティーヴィンス様)
の紹介に因りまして、とある二人の女御と知り合ふことになるので御座ひます。
一人の女御はレンスキー様の婚約者でいらつしやるオリガ様(レナ・ヒーディ
御嬢様)、そしてその姉でいらつしゃるタチヤーナ御嬢様(リブ・テイラー御
嬢様)で御座ひましたの………。

やがて、タチヤーナ御嬢様は、オネーギン様に恋心を抱くのでせうが………
そこから運命の歯車は大きく狂ひだすことになるので御座ひました。

昔………『危険な関係』で、メルトイユ侯爵夫人がわたくしに次のやうな御言
葉を掛けて下さひましたの。

「虚栄と幸福は、決して両立しなひのよ………ホホホ」

このオネーギン様を巡る運命も正にさう。自意識とやう虚栄に因りまして、幸
福を掴みとることが出来なひ不幸な殿御を実に顕わしておられます。

ただ………この映画は一筋縄では行かず、手強ひことに登場人物の御心が相手
の境遇によつて、万華鏡のやうに反射し、変化してゆく様を、ほんの些細なこ
とで表現しなくては為らず、非常なる難役と言へるでせう。

わたくしが驚きましたのは、リブ・タイラー御嬢様が、見違へるやうにタチア
ーナとやう女御の心の襞を掴んでゐると言ふことに驚愕したのでせう。

静かなる情熱の焔が燃へ盛る、十八世紀初頭の露西亜社交界を彩るセットを組
んだのが、美術監督のジム・クレイ様………。殆どの屋内はスタジオで組まれ
たさうでせうが、限られた予算の範疇で如何に絢爛に見せるか………さうした
試みを行ひ見事に成功して居られます。(うつとり)撮影監督のレミ・エイド
ファラシン様、衣装のクロエ・オボランスキー様、ジョン・ブライト様と共に、
アングルや、ダビッドのやうな「新古典派」の色合ひを画面の中に漂わすこと
に成功し………久方ぶりに良ひものを見せて頂ひたとやう感慨しきり。

兄妹映画と思つて甘く見ていたのでせうが………正直申しまして只管に十八世紀
露西亜社交界の空気を感じ取れる文芸浪漫の傑作誕生と唸る出来栄へで御座ひま
した。(うつとり)

「裏社交界の徒花」 マダム・DEEP
(第12回東京国際映画祭インターナショナル・コンペティション)

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