(流)『千言萬語』

今年は、東京国際映画祭、東京ファンタスティック映画祭、カネボウ国際女性
映画週間の他に、香港映画祭も協賛企画として開催されていたのですが、香港
映画と言うとエンターティメント色が強い映画の中、唯一社会派として出され
たのが、この『千言萬語』なんです。幸いにしてチケットが入手出来ましたの
で鑑賞することが出来た次第(感涙)

監督は、『女人、四十』のアン・ホイ様……1980年代の香港の市民運動を
描いた作品です。

冒頭で老トロキストの老人(香港での学生運動の草分け的存在だった)が、街
頭で講談をはじめるところからはじまります。社会運動に加わっていた青年ア
トンは、かつての恋人を家に保護する……そして、二人の回想がはじまって……
と言う構成。70年代の学生運動に端を発した社会運動家は、80年代を迎え
香港の水上生活者並びに中国大陸からの不法移民強制返還反対運動に従事して
いた。アトンがそもそも、この運動に係わりはじめたのは、一人の少女と出会
った為でして、その少女が熱心な活動家だった為、彼も深入りをしてしまうと
言う良くあるケースなんですねぇ(^^;;

アトン自身も父の姿を知らず、母親は助産婦と言っているが、実状は堕胎に携
わりそれで家族の生計を支えていた。そこから抜け出す為に、アルコール依存
症と為っていく母。アトンもそんな母を見るのも嫌だし……可憐な少女と一緒
に居た方が楽しいと言うことで、段々と荷担していく。が……その少女は、運
動グループのリーダーに恋をしてしまった……。

映画としては、構成が非常に難解ですし……人には薦められない映画なんです。
エピソードの一つ一つの纏まりが判り難いし、決定的な盛り上がりに欠けるの
です。上映後行われたティーチ・インでも、監督御自ら、「日本でこれだけの
観客が席を立たずに観てくれたことに驚いています……」と語った位ですから。

ただ……国や言語を越えても、ある時期にこの手の運動に共鳴し、荷担した自
分のような者にとっては非常に判る映画なんです。

グループのリーダーが、立候補して……メンバーとの意識のずれを生じさせて
いく所とか、喧嘩をしたときに迸り出る水上生活者に対しての侮蔑の念。あと、
アトンとヒロインの少女の恋愛模様にしても、省いたほうが構成としては判り
易くなるんですが敢えて入れた理由。小グループでも、男と女ですから……
やはり、あるんですよ。こうした影を含んだ面も入れているものだから、痛す
ぎて……かさぶたを剥がされている様な感じなんですね。

そうした影の部分をも含めて、苦労もあったけれども、決してその行動は無駄
では無かったという光の面も映しだしているんです。(号泣)

アンソニー・ウォン様演じていたイタリア人の神父役がそうでして、大陸からの
不法移民強制送還に反対して、只一人、行政庁の玄関でハンガー・ストライキを
しているのですが……壊血病寸前になり歯茎から血が出る中、蝋燭の灯だけで夜
を過ごす。努力の甲斐も虚しく……労働力として使える夫を残して、妻や子は大
陸へ強制送還されてしまうのですが……最後のほうのシーンで、再会を祝うシーン
が出てきたのには、ホント……貴方のやってきたことは決して無駄に為らなかっ
た……と、しばし滂沱の涙状態でした………。

映画を観ながら、ふと15年前の仙台時代に……そうした運動と係わってきた
自分の過去と画面が交錯していくような時をしばし味わったのでした………

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2000年11月3日 香港映画祭 渋谷東急にて鑑賞)

BGM:Brewer And Shipley『One Toke Over The Line』

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