(華)『オスカー・ワイルド』

世紀末ロンドンに咲いた「毒の華」オスカー・ワイルドの半生を見事に描き尽くした
紛れも無い力作です。ヴィクトリア朝の世相・風俗、同性愛の歴史に少しでも関心
が或る方ならば観ることを強く推薦させて頂きます。美術品の絢爛豪華さも、また
言うことが有りません。


(映画の内容と史実に大いに触れている為改行)


僕がワイルドの事を知ったのは、意外な切っ掛けでした………。
実は僕の趣味の一つに西洋占星術があるのですが、その絡みで西洋手相術
に関しても若干の知識があります。この西洋手相術の歴史を紐解いていくと、
或る一人の男の存在に必ずぶつかることになります。その男の名は、キロー
(本名・ルイス・ハーモン)日本に於いての手相の著作物に関しての大半は、
彼の説の影響を大部分受けている程の大物です。

彼が、とあるパーティの席で、ワイルドの手相を看てこう予言したのです。

「貴方は、二年後不名誉な事件に巻き込まれ、破産し悲惨な末路を迎える
ことになるでしょう」

この席に居た数多くの人々は、彼の事を嘲笑しましたが、二年後驚きと栄光
を持って社交界に彼を迎え入れることになるのです。

次には、同性愛者の歴史を紐解く上で、ワイルドの名前が出てきましたし、
著作に興味を持ち読みはじめた時期もありました。そして、現在は愛蘭土
関連の歴史を追う内に彼の存在が出ております。

僕にとっては、非常に他人とは思えない程彼の生き様に共感を持てるのです。

この映画の中では、1882年から、1899年迄の出来事を描いておりますが、
大きな比重を占めるのが、ボジーこと、アルフレッド・ダグラス卿との関係です。

このダグラス卿を演じた、ジュード・ロウの存在なくしては、この映画の存在感
はグッと落ちていたでしょう。
若さ故の高慢、父への憎しみ、ワイルドへの敬慕と軽蔑の念。全てが複雑に
絡み合ったキャラクターをまるで、自分自身の事の様に演じきっている演技は
正に白眉です。

実は、このダグラス卿なのですが、映画の中では極めて控えめに描かれて
おりましたが、実際は飛んでもない外道なのです。

史実はと言えば、本当に書いていてむかつくのですが、例えばこうした証言
が残されております。

「私はワイルドと出会ったことを痛切に後悔しております。彼は出会った人全て
に悪魔の影響を与えました………」

では、ボジー卿にお伺い致しますが、貴方がモーダリン・カレッジを追放された
のは何が原因だったのでしょうか?
同性愛をネタに恐喝されて、その資金を出してくれたのは一体誰なのですか?
或いは、湯水の如く浪費を続けながら、資金は誰に頼っていたんですか?

そうした数々の「史実」を踏まえながら、「何故、外道になってしまったのか?」
その経緯を、控えめではありますが、実に「品」を持って描きつくしております。
決して人間の事象だけを持って、その人間を評価するのではない姿勢に「愛」
を見出しますし、それが故にこの映画の「格」も数段向上しているのです。

オスカー・ワイルドを演じた、スティーヴン・フライもまた格別です。
予告編を観たときに、「本人に生き写しだ」と思ってしまった位に似ております。
彼に関しての伝記映画ですので、似ていなくては不自然なのですが、この映画
の中で、良き夫であり、父であり、また数々の男を愛した一人の男の肖像が
実に矛盾無く入り込めているのは、大変な力量です。

母親であるスペランザを演じたヴァネッサ・レッドグレープもまた、この映画に無く
ては為らない一人です。出番は少ないのですが、「男色裁判」に於いて国外
逃亡を薦められるワイルドに彼女はこう言って強く励ますのです。

「今こそ、英国人の偽善の仮面を剥いでやるのよ!」

今年に入って出会えた最高のセリフでしょう。長い時代に於いて英国からの、
差別と圧政に苦しんだ愛蘭土人の「情念」に満ち溢れております。僕がこの
世で一番憎んで嫌って居るのものが、「差別」と「偽善」なのです。
そうした空気が満ち溢れた時代に対しての「反逆」を、オスカー・ワイルドは
数々の著作と彼自身によって闘い続けた一人です。この母にしてこの息子
あり、見上げたものです。

そして、そうした彼を公私に渡って支え続けたのが妻コンスタンスと、ワイルドが
32歳の時に知り合ったロバート・ロス様(マイケル・シーン)です。
映画の最後では、獄中から出てきたワイルドとダグラス卿が再会する所で終
わっておりますが、金の切れ目が縁の切れ目。この二人は3ヶ月後に別れます。
ワイルドが実に膨大な著作を書いていれたのは、一つにはロビーことロスの強い
支えがあったからなのです。事実、ロスはケンブリッジ大学に於いて、書評や、
劇評等の文芸活動をしていた経歴があり、このことが後に大きな影響を及ぼす
ことになります。

獄中でワイルドが、ダグラス卿に宛てて手紙を書くシーンがありますが、それが
後に『獄中記』として出版されるのですが、刑務所を訪問して、ワイルドに書く
ように薦めたのもロスですし、ワイルドの死後、彼の復権の為に出版に奔走した
のもロスなのです。

そして、ロスは1908年に『オスカー・ワイルドの業績』と言う本を出版し、ワイルド
への負債を全て清算した業績。ダグラス卿に恋人の座を奪われながら、臨終を
見取り彼の名誉を挽回したことは、正に「品」の極致。
貴族であったダグラス卿が何ら「品」を持たなかった「外道」であったことに比べれ
ば天と地程の開きがあります。

ワイルドが1900年にこの世を去り、1918年にロスは心臓麻痺でこの世を去り
ます。
ロスの遺言により、遺骨は粉にされ、ワイルドの墓に埋葬されました。
ロバート・ロスは、そうするだけの権利がある人だと僕は信じて疑いません。

「大河ロマンを愛する会」 大倉 里司(HCD05016@nifty-serve.or.jp)

BGM:チャイコフスキー作 ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35

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