(悲)「パーフェクト・ワールド』

ボスニアの内戦映画で印象に強く残っているのは、『ブゴバルに手紙は届かない』
ですが、今回の『パーフェクト・サークル』は、それをも超えた衝撃を突きつけて
きます。

ポスターや簡単な紹介で、「ああ、これは難民の子供を連れて、叔母探しをする
ハート・ウォーミング・ムービーだな」と勝手に思っていたのですが、とんでも
無い間違いでした。m(_)m

随所に心暖まる描写はあり、それはそれでこの映画の潤滑油になっておりますが、
これはとんでもなく「怖い」映画です。
緊張の余り二時間弱の上映時間中、手のひらのみならず、脇の下、足の裏まで汗
を掻いて仕舞いました。

普通こうした映画を見た後に感じるのは、「可哀相」、「何でこうなるんだ」と
言う怒りや同情の念ですが、この映画はそんな甘い感情を与える間もなく、我々
を実際に市街地が戦場となっているボスニアに叩き込みます。

影も形も見えず、乾いたAK47の狙撃音だけが聞こえる市街地。十字路を渡
るのさえ「親不知、子不知」の状態で渡らなくてはならない怖さ。

あと、1000メートル渡れば、そこは戦地とは無縁の滑走路となっているのに、
その1000メートルがあたかも、ベトナム戦争末期時のメコン河の渡りに匹敵
する位危険な行動になってしまっているという哀しさと怒りの念。

ですが、戦士をも責められません。彼等もまた親や兄弟を殺され、「鬼」にな
ってしまっているのですから。

はじまってしまって、どこまで続くのでしょうか?

この映画の中に、非常に印象的なエピソードが出てきます。

半分廃虚となった、アパートメントの中庭に立っている、一本の白樺の樹。
あるきっかけでその樹を無理矢理切ってしまうのですが、その際に住人の一人
が銃弾で自らの頭を打ちぬきます。

彼等にとっては砲弾の中で生き残っていたその白樺こそが生命の象徴に思え
たのでしょう。それを絶たれることによって生きる望みを絶たれてしまった
虚無感。

何の救いも、光明も与えてくれぬ映画ですが、目をそらすわけには行かない
でしょう。だからと言って何も出来ませんが。(涙)
ただ、行方を見守り、それを後世に伝えることだけが、僕に出来ることです。

この映画は岩波ホールにて公開の予定です。全ての方に観て欲しいとは
書きませんが、世界の裏側で、また時空を超えていつも行われている「内戦」
の断片を知りたい方には強く推薦させて頂きます。

大倉 里司(HCD05016@nifty-serve.or.jp)

BGM:クランベリーズ『ボスニア』

 

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