(涙)『パウダー』

こんな素晴らしい映画と出会うたびに、僕は自分の無力さを恥じる。
銀幕から伝わってくる「力」と「愛」、そして受けた衝撃の何分の1かでも
伝えられるかと言う不安が去来し、その場面を思い出すことによって、
また同時に至福の時を得る。

それでも、僕は書き続け、そして言葉を使って語りつづけるだろう。
『パウダー』と言う素晴らしい映画の事を…………。

『パウダー』

アメリカ映画 配給 ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン

監督 ビクター・シルバ
出演 ショーン・パトリック・フラナリー
メアリー・スティンバーゲン
ランス・ヘリクセン
ジェフ・ゴールドブラム

音楽 ジェリー・ゴールドスミス

新宿ジョイシネマ4で鑑賞


初めは全然期待していなかった。ひょっとしたら………。と言う望みが
無かったとしたら嘘になるが、この映画を観ようと思った最大の要因は
公開が25日までだったことである。

当初観る予定だった、『ブコバルに手紙は届かない』を蹴って、慌てて
チケットショップに走った。

観た後の所感。

『フェノミナン』にあれだけ多大な絶賛が寄せられて、こちらが全然取り上
げられないのを不思議に思った。
ちょっと早い気もするが、今年のベスト1に挙げさせていただきます。

この映画を以下の人たちに推薦します。


☆『泣ける男の会』会員の皆様
★ 悪役俳優同好会「悪の華」の皆様
★ 親父俳優普及組合「親父魂」 の皆様
☆カルト部屋住人の皆様
☆『ファンタジー普及協会』の皆様

全ての映画ファンの皆様にも観て頂きたいのですが、僕の好みが特殊かも
知れないので、上記構成員に限らせて頂きました。m(__)m

彼の名はパウダー。その名の通り、純白で色素が無い体と、穢れ無き心、
そして類い希なる知性と人の心が読めてしまうと言う「異形」の民です。
その彼がひっそりと暮らしていたいと望んでいたのだが、「世間」はそれを
許さなかったと言う物語です。

その意味で、名作『ネル』と同格の評価を致したいと思います。





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まず、この映画を観て思ったことが一つあって、この映画には僕の嫌いな要素
が一つも含まれていないことを挙げておきたいと思います。

落雷の日に病院に一人の妊婦が担ぎ込まれてきた所から物語は始まります。
雷に打たれて、母親は即死。父親は赤ん坊を見て呟きます。

「これは、俺の子じゃない」

激しく揺れ動く脳波の針、力無くたたく乳児の手。
彼は、生まれたときから知性があったのです。そして愛からも見放された存在
であることも悟ります。

月日は流れ、テキサス州にある農場で一人の老人が息を引き取ります。
警察の調べで、家の中に隠し扉があることが分かり、地下室へと通じておりま
した。薄暗い地下室にあったのは、数多くの書籍に囲まれて暮らす、一人の
純白な少年

彼は、本を愛していたのみならず、その本を全部暗記していたことに驚いた、
ジュディは彼を施設へと送りますが、そこで遭う苛めの数々。

この映画の凄い所は、普通だったら、何人かの少年と理解を示し友達になる
べきシーンが含まれている所でしょうが、それをしない所です。
「泣ける」或いは「感動させる」のが目的だったら、そうしたシーンを安易に入
れているべきでしょうが、数々のトラウマを引きずったそれぞれの少年達は、
自分を守ることで手一杯で、到底理解することなどできようもありません。
ここまで描き切ったことに感服しました。
それぞれの少年達も心の中に「地獄」を抱えていたのです。彼らにとって新入
りが入ることは、自分の地位の確認でしかなかったことを示しています。

理解を示そうとするのが、ジェフ・ゴールドブラム演じる科学教師。
彼は、パウダーの持つ知性故に彼に心惹かれていくのです。
ここが誠実な作り方をしています。どこかしら「自分」に共通点が無ければ人を
理解できません。

本を愛する人と、そうでない人を愛せと言われて、他の条件が全て同等であっ
たとしましょう。僕は、やはり本や映画を愛する人を選びます。

映画の中で描かれていた地下室で、数多くのハード・カバーの本を見たときに、
僕は彼を理解できると直感したのです。
僕は英語は出来ませんが、それでも分かり逢える自信はあります。何故かと言
えば、僕も「本」を愛しているからに他なりません。

ランス・ヘリクセン様も数多くの映画に出演しておりますが、悪役顔を逆手に
とって人間味あふれる保安官役を演じております。

彼にもまた、「地獄」を抱えておりました。植物人間となってしまった妻と、
仲違いしてしまった息子ステーィブの事でした。

彼もまた、パウダーの特異な能力を必要としていた一人でした。
パウダーは、彼の頼みで植物人間になっていた妻とのコミュニュケーション
を図ろうとします。
この時のランス・ヘリクセン様の見せる「涙」こそが、「地獄」から抜け出る
細い糸だったのですね。

そうした意味でこの映画は、彼の代表作となるべき一本です。(断言)



この映画でもっとも泣けたシーンが二つありまして、それは何かと言えば、
キャンプ場でのシーンと最後のシーンです。


キャンプ場で誰とも口を利いてくれないパウダーに理解を示したのは、
保安官と野木にさすらう動物達でした。

彼は人間のみならず、全ての生きとし生けるものに感応能力を持っており
ました。

彼が森の木々に座ると、一匹の蜥蜴がよってきました。彼はその蜥蜴を
優しく撫でます。それに感応して森中の蜥蜴が彼の回りに集います。(^^)
これが、誰からも愛される存在のウサギとか、鳥であったらこのシーンは
それほど評価をしていないでしょう。
「異形」であり「忌み嫌われる」存在である爬虫類だからこそ、高い評価
をするのです。
本当にこの脚本を書き、監督をしたビクター・シルバは「差別」を憎んでいる
と言うことが分かりました。

そして、ハンティングをしていた、副保安官が鹿を撃ち殺します。
断末魔に襲われる鹿の首に触れ、もう一つの手は、副保安官の腕を「哀しみ」
と「憎しみ」に満ちた眼で凝視します。その瞬間、副保安官の体に激痛が走り、
彼は倒れます。

取り調べを受けるパウダーが言います。

「あの人がどんなことをしたか知って欲しかった」と。

僕は、以前釣りをしていたのですが、今ではもうやりません。
魚と言うものは食べるものであって、殺すために捕るものではないからです。
勿論、肉・魚は食べますが、生きるために殺生をしているのだと言うことは、
胸にいつも抱えて生きています。
よく、「魚は川に還すから大丈夫だ」と言う人がおりますが、その人に言いたい
のが「貴方は、口に大きな穴を開けられて我慢できますか?」と言うことです。
食べる為、生活の為に魚を捕る人の事は責めておりません。
あくまでも、「快楽」の為に殺生をする人の事を好きにはなれません。

そして、もう一つがラストシーンです。

全ての所を奪われた、パウダーにとっては戻る場所はあの家しか無かった。
ジュディが見たものは、紙で出来た鳥を手に持っていたパウダーの姿。
「紙で出来た鳥」に、V・C・アンドリューズの名作『屋根裏部屋に還る』
の描写を思い出し泣けてしまいました。

家の前には、保安官と副保安官が来て、彼を捕らえようとする。
逃げるパウダー。

ひたすら草原を走る描写。空には積乱雲、雷鳴が響いていた………。

この走るシーンの美しさは、『誓い』、そして『灰とダイヤモンド』以来の
名シーンとなって語り継がれることでしょう。


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あとは劇場に行ってくださることを祈るのみです。

大倉 里司(HCD05016@nifty.ne.jp)

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