(水)『ラット・キャッチャー』

決して難解では無いが、手の届きそうなところにあって、形も判別出来るが……
上手く言えない映画と言うものが、たまにある。この『ラットキャッチャー』は、
自分にとってそんな映画なのです。

70年代のスコットランドの工業都市であるグラスゴーを舞台に、一人の少年の
心の軌跡を描く……と書くと、ちょっと誤解されそうなんですが、割とマトモな
話なんですよ。それ自体は。但し、この少年、ジェイムズの心象光景を含めた近
所の観察を含めてですが……余りにも自分と似ているんで、困ったものでもあり
ます。

リン・ラムジー監督は、若干29歳でこの映画を御撮りになっておりますが、テ
レビ等でその時代の空気を感じたと言うものの、随分と観察眼が鋭い人だなぁ……
と思わせるショットが多数あり、その度に震えあがりました。

先ず、第一に冒頭で茶色の水で満たされた用水路で、ジェイムズが友達のライア
ンと戯れていて、ライアンが溺死してしまうところからはじまるのですが、この
用水路の描き方が良いのです。凡庸な監督だったら、雨でも降って水嵩が増して
……云々ですが……この人は、普通の用水路として撮っております。精々、溺れ
たところも水深1メートルあるか無いか?と言うレヴェル。そして、水路から上
がってきた少年の死体なり、ジェイムズの父親が別の少年を救出したシーンでは、
「水」よりも「泥」に重点を置いている。これって……水辺マニアとしては、
最高得点の描写でして……マイケル・ウィンター・ボトムの水の描写が……『アイ
・ウォント・ユー』では「海水」&「淡水」と節操が無いのに比べて、極めて
「運河系」と言う「人工的なもの」に拘って撮っているのが感じ取れ、実に清々
しい!\(^0^)/
ジェイムズがそうであるように、また自分も淡水系の近くが異常に好きでして、
湿地帯とか運河とか、小川となると異常に中を覗き込みたくなるんです。と……
言っても荒川&隅田川&琵琶湖クラスになると興味が失せるんですよ。(笑)
ここまで「淡水系」のほとりを堪能できたのは、『うなぎ』以来の出来事!
(テーマはまるで違いますが……(^^ゞ)

さて、ジェイムズもまた、確たる不満もないのですが、かと言って何処に属すでも
無い、年長者の虐め軍団が居れば付いては行くのですが、完全に仲間として属して
いる訳でもなく、鼠をはじめとして小動物に愛着を持つ「異端児」ケニーとも、
信頼されているようで、されて居ない様でもある。これ……決して描写が下手で
訳が判らないというのでは無く、「形に収めようとせず、ありの侭を自然に」描写
しているんですね。ですから、無理に形に詰めようとすると手からするりと抜けて
しまう感じ……自分の中には在るから判るので、ようやく安心出来ると言う段階。

一番恐ろしいのが、バスで終点に向かった先での出来事……

ジェイムズがフラリとバスに乗り目的地も判らぬ侭、終点で降ろされると、そこ
にはニュー・タウンの増設現場がありました。背後には草原が広がっており、久々
に冒険を出来たなぁ……と喜ぶ彼。

ゴミ収集が軍によって行われ……(ここの描き方は戦争映画風)市内にゴミ袋
一つ落ちていない正常な状況になったとき、街には、はじめての雨が降り、ジェ
イムズは、再びニュータウンの増設現場に向かうのですが、鍵は閉ざされどこにも
彼の居場所が無くなっていた………。

正常に機能した中では、「こうもり」は必要が無くなったことを指し示している
かの様な残酷なシーンでした。そして、彼、ジェイムズは時計の針を映画の最初
に戻すべく行動に出るのだ………と、今ではそう感じております。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2000年4月6日 ケルティック・フィルム・フェス 草月ホールにて鑑賞)

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