(毒)『リディキュール』

皆様御機嫌いかがでせふか。わたくし、マダム・DEEPと申します。

今日は、パトリス・ルコント監督作品の『リディキュール』の感想を書
きに参りましたの。

18世紀のロココ文化が爛熟を極めて、ブルボン王朝の落日が迫ろうと
しているヴェルサイユ宮のサロンで繰り広げられる、「舌戦」の数々。

「太陽王」ルイ14世の時代では、家系がなによりも重んじられたヴェ
ルサイユ宮のサロンですが、ルイ15世の寵姫でいらっしゃるポンパト
ーゥル侯爵夫人の登場あたりから、サロンの性質が変わったと伺ってお
りますの。それは、ヴェルサイユ宮でも「家柄」は勿論でございますが、
「才知」と「美貌」を武器にして「社交界」を牛耳ることが出来た巴里
のサロンの影響を受けてきたのですわね。

******これからその秘密を公開しますわね。(ニッコリ)******


映画の中でそれを体現する御夫人が出て参ります。ファニー・アルダン
様演じる、ブラヤック伯爵夫人ですわ。
彼女は、夫が何故死んだかも薄々感づいていた筈ですわ。
それにも係わらず、「宮廷内」の「権力」を握る事が出来たのは、「才知」
と「美貌」があった事は勿論でございますが、常に有能な人材を回りで
囲み、王に自分の力をそれとなく顕示した事で御座ひませふ。

それを示すシーンが、彼女の愛人であったヴィルクール神父が、ある
「不用意な発言」をした瞬間に、ルイ16世から、
「その話は、バスチーユでやるんだな」
と言われ席を立った瞬間に「社交界」での「処刑」は行なわれたのですわ。
彼は、夫人に御取り成しを頼みますが、彼女はこう言って婉然と微笑ま
れますのよ。
「悪いけど何も出来ないわ」

そして、このシーンは、仮面舞踏会で彼女が流した涙に繋がるのです。
すなわち、「宮廷力学」ですわね。
「宮廷」と言う「舞台」に立ったら、どんなに嫌でも役割を演じなくて
はなりません。愚かしい滑稽な事(リディキュール)、と彼女は自分の
行動は分かつてゐたのですわ。
しかしながら「宮廷」に身を置く以上、ポンスリュドンの彼女である
マチルド様の生き方が羨ましく思いましても、毎日白粉とドレスで
「武装」しなくてはならなかつたのでふ。
「何と言う哀しい生き方でせふか?」
と心ある人は言ふかもしれません。しかし、わたくしのような寡婦の身
にとりまして伯爵夫人の生き方は手に取るやふに分かりますの。

彼女にとって、宮廷を離れて「憐れみ」を示されることは、「死」より
も屈辱的な事だつたのでせふ。
「憐れみ」と言う仮面の下に隠されている「侮蔑」を受けることが、
伯爵夫人には耐へられなかつた。

かって自分が他の人間にやつた事を、違ふ人間にされる。
それが為に、涙を流しながら、血を吐きながらも、「宮廷」と言ふ
「舞台」の上で、「ブラヤック伯爵夫人」と言う「役割」を演じつづけ
なくてはならなひでせふ。

それに対して、もう一人の主人公であるポンスリュドンは近代的人間と
して描かれています。
彼は中々の好青年でして、わたくしのような寡婦の身にとりまして魅惑
に満ちた存在でありますが、それは置いておきまして、行動の説明から
入りたいと思いますの。

彼は、田舎の貴族です。それも自分の領地は沼地で使い物にならず、
住民の平均寿命が35歳と言う劣悪な環境のところです。
そこで彼は沼地の干拓作業を陳情しに来るのでございますが、右も左
も分からない田舎貴族に、一瞥もくれません。
これは、現代社会が抱える「官僚制度」への鋭い批判であると思いま
したの。彼は、幸いにして「才知」豊かで「美貌」もあったので、じわ
じわと宮廷での階段を上り詰めていきます。

わたくしも、この映画はここで終わるのかなと想像していたのですわ。
それは、それで「皮肉」と言う「毒」に満ちた映画として評価できまし
せふ。しかしながら脚本を書かれた、レミ・ウォーター・ハウス様は、
もつと凄ひ結末を用意してくださひました。
彼の陳情は、ルイ王朝の許では、却下されてしまうのです。
皮肉にも、それが認可されたのは、テルール吹き荒れ、政治家や貴族が
次々と断頭台の露となるように司令を下した、1793年の「国民公会」
で彼が働きかけたためであると映画の中でさりげなく示されます。

わたくしが震撼したのは、この部分なのです。
この映画の真の『毒』とは、「宮廷力学」をちりばめ、絢爛豪華に描写
を続け、人間の愚かしさ、はかなさを執拗に描きながらも、全てが無駄
であつたと言ひ切る作者の意図に、官能的な味わひをも含んだ『毒』を
感じました。


**********舞踏会は終わりましたわ***********


最高の「表社交界映画」の一本として、この作品の持つ『毒』は後世
まで評価されるべきものです。

『裏社交界の徒花』 マダム・DEEP

BGM:オリジナル・サウンド・トラック『リディキュール』

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