(鬼)『楽園をください』

『アンクル・トムの小屋』を1852年に書いたストウ夫人は、南北戦争中に
リンカーンに会ったときにこう言われたそうである。

「あなたがこの大戦争を引き起こした本を書かれた小さい御婦人ですね」……と。


1861年から65年まで続いたアメリカ南北戦争下中立を守っていたのが、
この映画の舞台となるミズーリ州なんです。そして北軍に属していたのが御隣
のカンザス州。映画の最中良く出てくる「テキサス州」は完璧に南軍の配下で
した。これらのことを踏まえて御覧になるだけで、この映画は違った様相を見
せはじめるのです。

舞台は1861年。前年の60年奴隷解放論者のリンカーンが第16代アメ
リカ合衆国大統領になり、翌年の61年南部7州が連邦を脱退。南部連合を
結成したことから南北戦争の火蓋が切られるのです。その際に中立を守って
いたミズーリ州と、北軍側のカンザス州の州境地区に住んでいたドイツ移民
の二世のジェイク(トビー・マグワイア様)と裕福な農園主の息子ジャック
(スキート・ウーリッチ様)は、希望に満ちた青春をおくれるはずでしたが、
時代の流れがそれを許さなかった………父親を北軍派に殺されてしまったジ
ャックはもちろんのこと、父親のススメで北軍のドイツ人グループに身をよ
せるべきジェイクも南軍派のゲリラ隊“ブッシュワッカー(薮の中から奇襲
をかける者たち)"に加わった。この中で眼に残忍さを秘めた隊長格ブラック
・ジョン(ジム・カヴィーゼルさま(*^_^*)(ポッ)。解放奴隷であるがために
仲間からもよそ者として扱われるホルト(ジェフリー・ライト様)、次第に
殺戮そのものが目的となって修羅をさまようピット(ジョナサン・リース・
マイヤーズ様)彼等は……修羅と愛憎の果てに何を見て……何を得たのか?
そしてその代償とは?果たして「地上の楽園」はこの世にあるのか……

 

期待以上の出来栄えでした……ぼくは、元来ロン毛と主役格の3人。トビー・
マグワイア、スキート・ウーリッチ、ジョナサン・リース・マイヤーズの3人
共好きでは無い俳優さんなのです。が……それにも係わらずロン毛も何も気に
ならなかったのは凄い!(笑)

今回思ったのは、メインの事件であった「ローレンスの大虐殺」の場面が一種
のクライマックスだと思うのですが、これを観ていて「連合赤軍」を思い出し
たのですよ。(涙)
確かに……ブッシュワッカーと連合赤軍じゃ違うのかも知れませんね。でも、
主人公のジェイクが僅か19歳であった設定(これはベトナム戦争戦死者の平
均年齢を意識していると確信します)それに「恋愛経験」が殆ど無い侭に戦場
へと掻き立てられたもの……1860年にぼくがミズーリ州に生きていたと言
う「縁」があれば、自分だって同じことをしていた筈ですし、ジェイクの様に
無事生き残ることは出来ず、ピットの様に自分が修羅の世界に生きている事に
気付きながらも尚「死」に突き進んでいく道を歩んだでしょう……。

このピットと言うキャラクターが、実にピリリとした味わいを与えています。
言わば「人知れず散っていく鬼火の化身」の体現と感じたのですね……一体彼
に何があったのでしょうか?

更に、隊長格のブラック・ジョン(ジム・カヴィーゼルさま(*^_^*)(ポッ)は、
かなり複雑なキャラクターです。残忍ではあるけれども「現実」を見詰めてい
るところもある。闇雲に「死」を求めてはいない……そして、「最後の一線」
を踏み越えまいと努力しているキャラクターなんですよ。

実は初見では、『シン・レッド・ライン』でウィット君を演じたジム・カヴィ
ーゼルさまがどう「役つくり」をしたのか?それに焦点を当てて観たのです。
そうすると……意外や意外……映画の構成が俯瞰図となって浮き上がってきた
のですね。ブラック・ジョンは隊長格だけありまして「歴史が動く瞬間」には
必ず立ち会っているのです。彼がボウボウになった髭面でジェイクがお世話に
なっている家を訪問するときに「南軍の衰退」を嘆くシーンがあります。
このときに既に彼は「修羅」の世界からは、半歩踏み出していたのですね(涙)
ただ……家族も失って……愛する対象は、もう「戦友」しか居なかった……。
それを引き継ぐような形でピットがジェイクの前に現れ、ブラック・ジョンの
戦死を告げるシーンは非常に痛いものですし、ピットもまた「自分が生まれた
地で酒が飲みたい」………と「緩慢な死」ではなく「目前の死」を望む心境は
涙無くしては観られません。

で……ブラック・ジョンにあって、ピットに無かったもの。それは「矜持」な
のですね。ブラック・ジョンが最後迄自分に課した「一線」とは「女子供は殺
さない」と言う掟。現に最初にお世話になった農家で北軍に向かって「女子供
だけは助けたい」と叫び二人を逃がす……これがあるから最後まで「正気」を
保っていられたのでしょう(涙)

かと言って「善意」が必ずしも「善果」を招くとは限りません。<因果律
「良かれと思って行なったことが悲劇を招く」のは、自分が一番好きなパター
ンの一つなんですが(笑)ジェイクの友人が北軍捕虜となり(南北戦争中は良
く合った事例らしい)彼を平和の使者として町に送り出すのですけれども、彼
によってジェイクの父が殺されてしまう。それを知ったジェイクは、馬に乗っ
て行軍中に、そっとコートの前を閉じる……。

推測なんですが……これは、父を殺したのが自分が信じていた友人であったこ
とにより「心を閉ざした」表現なのでは?と思うんです。(^^;;
何故か?と言えばまたまた『シン・レッド・ライン』からの引用で恐縮なので
すが、C中隊主要メンバーの中で「唯一」戦闘服のボタンをキッチリ嵌めてい
たのがディル二等兵でして、彼が画面の中で初めて前を広げているシーン……
それは、戦争が終結し船に乗り込む際に共同墓地の前を通ります。その際には
シャツが見えるのですよ。(この場面は、ウェルシュ曹長のモノローグ……
「その一瞥さえあれば、おれはあんたのものになる」の直前(^^ゞ)

まだまだ語り尽くしたいネタが山のようにある希有な一本。出会えて幸せでし
た。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2001年2月20日 日比谷シャンテシネ2にて鑑賞)

BGM:OST:『パスカリの島』より『パスカリの嘆き』

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