(赦)『ヒマラヤ杉に降る雪』

今迄、日系アメリカ人の苦悩を描いた映画の中では、寡聞ながらこれが一番出
来が良いだろうと考えております。

時は1954年の冬。雪が降り始める頃、この島で、第一級殺人をめぐる裁判
が開かれ、一人の日系人が裁かれようとしていた。

その年の9月。霧の濃い海で、漁師のカール・ハイン(エリック・サル様)が
溺死し、その死体の頭部には鈍器で頭を殴られた痕が付いていた。容疑者とさ
れたカズオ・ミヤモト(リック・ユーン様……かなりの美形)は、カールの死
ぬ直前に近くで漁をしており……しかもカールとカズオは、7エーカーの土地
を巡って関係が険悪化していたことが明らかになる。カズオの妻であるハツエ
(工藤夕貴御嬢様)は、為すすべも無く見つめるだけであった……。

一方、地元紙で記者を務めるイシュマエル(イーサン・ホーク様)は、タラワ
戦線で片腕を亡くし、かつてはハツエと恋仲であったが、戦時中、ハツエから
別れの手紙を貰ったことで心中穏やか為らない……彼の心の中では、ハツエに
対しての捨て切れない愛情と憎しみが交錯していく……

長々と導入部を書いておきましたが、一言では言えない程に複雑なプロットな
んです。元々、これはデビッド・ダターソン様の『殺人容疑』(講談社文庫刊)
を読んでから映画を見て欲しい作品でして、非常に原作に忠実に映画化してい
るが故に、過去の回想シーンと現在での裁判シーンが交錯する為、未読の方は
そんなことだったのかぁ……。で流されてしまう危険性が大きいのですよ。

映像は空前絶後の美しさ……とりわけ、イシュマエルのタラワ戦線での描写に
ハツエからの別れの手紙のモノローグが被さるところは、鳥肌ものの凄さ……
ここまでのレヴェルは、『シン・レッド・ライン』……『クンドゥン』以来の
出来事。室内は……フェルメールをはじめとするオランダ風俗画・室内画の色
調です。映像的には、今年見た中では文句無しに一番。

演出も原作を踏まえながらも、ちゃんと「スコット・ヒックス印」が刻印され
ております。サム・シェパード様が演じたイシュマエルの父の輪転機が廻って
いるところなどは『シャイン』でヘルフゴッドがピアノを連弾するシーンの如
く「アクション映画」の撮り方をしております。

で……問題となるのが、過去の回想シーンを含めて観客にどれだけ伝わったか?
これがチト心配。

原作を読んでいれば、ああっ、そうか!と思える伏線が何重にも絡まっており、
その一つ一つに当時の社会背景をも含めた「個人史」が浮かび上がるのですが…
映画のほうでも「一通り……しかも丁寧に」描けてはいます。でも……印象が
薄い……と感じてお仕舞いにしてしまうのが勿体無い!

映画も秀作と言って良い出来栄えです。が……しかし、原作と対比させて観る
と更に何倍もの威力となって伝わるであろうと確信するのです。

ですから……こうして、何だか煮え切らない書き方をしているのですが、近日
中に日系移民史と、この映画のことを含めて展開させていく所存ですのでしば
しの猶予をお願いしたいところで御座います。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2000年4月28日 日比谷みゆき座にて鑑賞)

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公式サイト(殊に、タイム・ラインの日系移民史の項目は圧巻)

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