(雪)『スターリングラード』(1993年版)

1942年、第二次大戦は四年目に突入し、ドイツ軍はソ連に侵攻、次の軍事
目標を工業都市スターリングラードに定めた。ここを落とせば、赤軍の物流の
遮断となるとの総統の発案から生まれたもの。実際に作戦に従事していたの
は、パウルス将軍率いる第6軍。この中に編入されたのが、ヒューマニストの
ハンス中尉(トーマス・クレッシュマンさま)、アフリカ戦線で武勲をたてた
フリッツ伍長(ドミニク・ホルヴィッツさま)、軍曹ロロ(ヨッヘン・ニッケ
ルさま)、新兵のジジ・ミューラー(セバスチャン・ルドルフさま)ら若い兵
士たちは、イタリアの観光地から、いきなりスターリングラード近郊の前線に
到着した。彼らはマスク大尉(カレル・ヘルマネックさま)率いる中隊に編入
されるが……

出兵時27万人いた第6軍の兵士のみなさまが、降伏時に迄に9万人になり、
抑留されて戦後、帰国できたのはわずか6000人。兵士・下士官の死亡率
95%、将校55%、指揮官5%……(D坂髑髏亭よりデータ拝借m(__)m)

時として感傷的な甘い描写もありますが、東部戦線に関して素人の自分でも、
確かに、これは生きた地獄だわぁ……と感じさせる描写と、要所、要所がキ
チンと織り込まれた良心的佳作では無いかと思います。

感傷的な甘い描写と書きましたが……ハンス中尉が終始一貫してヒューマニス
トな描写の為なんです。ただ、「地獄」だからこそ、何とか「善」を信じたい
(涙)という製作者側の意図も分かりますし、自分だってハンスを初めとして小
隊の皆様が血も涙も無い「修羅」となっていたら、現実なのは判るけど……
ビデオを止めていたでしょう。だから仕方無いですし、『SPR』のアパム君の
ようにゴチャゴチャ言わないので、鬱陶しくありません。(笑)

ただ……それ以外の描写は、かなり凄いです。本隊から「懲罰部隊」(早く言
えばシベリア送り(^^ゞ)になった小隊の面々が、戦車隊と衝突するところ。
「塹壕から出してくれぇ……」(そりゃそうだ)と叫ぶ兵士、足を引き摺りな
がら轢き殺そうとする戦車から逃げる兵士の姿は胸に深く突き刺さります。(涙)
そして………雪の中にも地雷が埋められていたり……とか、民間人を食い扶持
を減らすために銃殺刑に処したり(その後の運命を考えると、まだ幸せだった
かも知れない……少なくとも処刑する側の兵士が「殺したくない」と言う意思
を確認出来ただけでも少しは慰めになるのではと………m(__)m)

そして、小隊が分裂して……3人が仲間と離れて、「傷病兵」の認証を死体か
ら剥ぎ取る場面。生きている人間から取ったら外道ですが……。この場合は、
死体から金歯をペンチで抜き取っていたデイルさんよりも罪は軽いし、誰が責
められますか?
ですが……飛行場迄行ったは良いけれども、最後の飛行機は将校だけを乗せて
飛び立っていく……(満州引き揚げ時の関東軍の精鋭の様ですね(--;))
この描写は白眉と言っても良い気がします。ベトナム戦争モノで言う大使館の
門前を思い浮かべて頂ければその凄みは判って頂けるかと………(悲)

その3人も下っ端の為、弾き出されて元のところに戻る……そして、戦況が悪
化しているにも係わらず上級将校のみ美味い汁を吸い……と言う構図は万国共通。

ただ……この映画も東部戦線ものの常として悲惨な結末を迎えるのですが、観
ていてそんなに暗く、イヤーな気分に為らないのは、「最後の最後まで人間を
信じている」からなんです。

新兵のミューラーくんが、最初の戦闘が終ったあとで、味方を誤射してしまった
為に泣いているんですね。彼の隣にいた軍曹ロロが……こう言うのです。
「俺は何も感じない……耳をこうやって、閉じているからなんだ(と手で耳を下
げる描写)「泣けるお前が羨ましい………泣けば気持ちが晴れるからな……」
「お前のやったことは間違っていなかった……もし、敵だったら撃たれていただ
ろう?味方を撃ってしまったことは俺にもある」とニコヤカな顔をして言うんで
すね。そして酒瓶をミューラーくんに渡す……このシーンでは、ミューラーくん
に釣られて貰い泣き。(涙)

そして、ラスト……ロシアの女兵士とハンス中尉とアフリカ戦線帰りのフリッツ
伍長は雪原の中を逃げまどいます。ロシアの女兵士がロシア軍と接近した直後、
彼女は撃たれて即死。そのそばに居たハンス中尉も瀕死の状態……。
ハンスは、自分を置いておいて、フリッツだけは逃がそうとするんです。
ですが……フリッツはハンスを見捨てず、共にこの地で生を終えることを決める
のです。(涙)
フリッツ伍長がアフリカの砂漠のことを話し終えたとき、ハンスの身体は冷え切
っておりました。雪は、二人の姿を見えなくするかのように更に降り注ぐ……。

ぼく的には、この二人……地獄の東部戦線の中では、幸せに死ねたほうでは
無いかなぁ……。お互いを最後まで信頼して死ねたのはどんな形であれ幸福だ
ったと信じたいのです。

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2001年4月13日 ビデオにて鑑賞)

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