(欲)『朱家の悲劇』


本日、テアトル新宿にて『朱家の悲劇』を観て参りました。

実に惜しい映画です。個人的には「ある要因」さえ無ければ、傑作と言っても
良い出来なのです。内容の方を掻い摘んで御紹介すると。

1920年代に江南のとある街に質屋を営む一家があった。
当主のチューは、強欲さを絵に描いたような男。息子が二人いたが
出来の良い長男の方は早々と死んでしまい、遺されたのは次男の
ホイだけ。ホイは幼いときから母親に溺愛され我侭放題の放蕩息子
に育っていく。
一方、使用人であるティアンと、アーファンは言わば幼なじみ的関係。

10年後になっても、ホイの放蕩息子ぶりは変わらず、当主のチューは
手を焼く始末。

そんな時、皇帝の遺品である「含み玉」が質屋に持ち込まれる。
鑑定の結果は本物と判明。今でも相場の方は分かりませんが最低
100万円は下らないものでしょう。(皇帝の格によって値段が違うが
漢の時代のものだとすれば、100万でも甘いか?)

やがて何者かによって、その「含み玉」が盗まれてしまう。
これが全ての悲劇の発端だった………………。


*****以下の個所に内容に触れている個所があります*****


では、この映画の評価すべき点を述べさせて頂きます。

お金を掛けずに、実に限られたセットの中で家具を使いまわし、実に上手く
「時の流れ」であるとか、その家族の暮らしぶりを表現し尽くしました。

この意味で、ウォシャウスキー兄弟監督の大傑作である『バウンド』と匹敵
する出来だと思います。
見えないところに金を遣わず、衣装とか調度品に金を掛けてゴージャスな
雰囲気を醸し出しております。

あと、この映画の前半部分が実にテンポが良い。凡庸な監督だったら30分
ぐらい掛かりそうなシーンを実に手際良く見せてくれますが、実は後半にな
ってこの点が仇になるのです。

仇となるのは、その後半部分が陰謀と、復讐、憎悪を描きながら実に
アッサリと片付いてしまった点。

当主によって寝取られてしまった、アーファンを巡って、ホイとティアンの
心理戦が途中まで面白く観れたのに、それが「詐欺事件」を間に入れる
ことによって極端に薄くなってしまったこと。

この「詐欺事件」ですが、処理の仕方が実に勿体無い。
演出がテンポ良いのは分かるんですが、ハッキリ言えば説明不足の感
を否めません。
途中まで「本物」を見せて、引き取らせ最後に偽物をつかませるのが
古美術界の常道では?
まあ、このシーンですが、今になってみればああ、そうかと納得してしまった
のですが、でもやっぱり説明不足です。

それに何故、当主がこれしきのことで落ち込む?
中風になるのは当時の食生活に影響されてのことでしょうが、裏を掛かれ
たら掛け返してあげないといけません。(笑)

その結果一家が没落していくのならば、未だ納得しようものですが、
正直言って「甘さ」は隠せません。

この監督である、劉苗苗(リウ・ミアミアオ)様は、「この映画の全ての要因
について批判的な心を持っていた」と語っておりますが、甘すぎます。

前半部分は確かにそれで成功しているのです。ただ、使用人のティアン
が当主になって、大旦那であったチューをいたぶる所はアッサリし過ぎ
です。10分位観客が止めてくれと叫ぶくらいに描ききるべきでした。

人間の持つダークな部分に触れて、どんなに嫌でもそれを直視して、
それを描き切ることによってのみ、克服できるのではないかと感じました。


********内容告知モード終了*************


実に才能がある人だと思ったので、大胆な苦言を呈してみました。
本当に惜しい残念作でした。

「大河ロマンを愛する会」 大倉 里司(HCD05016@nifty-serve.or.jp)

 

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