(鮫)『ザ・ビーチ』

此処は常夏の国、仏教国タイ国。アメリカ人バックパッカーのリチャード(レオ
ナルド・ディカプリオ様)は、とある安宿で精神を病んだジャンキーのダフィ
(ロバート・カーライル様)から「地図に載っていない楽園の島」を聴かされる。
最初は真に取っていなかったリチャードだったが、翌日、ダフィが手首を切って
自殺し……リチャードには地図が遺された……。リチャードは、同じ宿に泊まっ
ていたフランス人カップルのエティエンヌ(ギョーム・カネ様)とフランソワーズ
(ウィルジニー・ルドワイヤン御嬢様)とその島を探すことにする。決行前の前
夜……ひょんな切っ掛けでリチャードは、地図のコピーを一部作り、世話になった
アメリカ人旅行者に渡してしまう……

何とか島に着いたが…その島の内分けは、半分が現地人による大麻畑、そして残
り半分サルと言う女リーダー(ティルダ・スウィントン御嬢様)の管轄で、双方
とも「これ以上人数を増やさない」&「お互いの陣地には口を挟まない」と言う
微妙なパワー・バランスの上に構成されている世界だった……

だが……徐々に「楽園」の本音と建前が乖離しはじめた時……それは崩壊を意味
しているのでありました。

先ず、これは通常の意味で「出来が良い」映画では決してありません。(爆)
と……言うのは、展開が読めてしまうし、「楽園」の描き方が魅力的では無いし
「共同体」としての世界が安直なんで……それに不満を感じる人が多いのは十分
に肯けます。

自分もそう思っております。「島」のビーチは退屈そうですし、それだったら
賑やかな対岸沿いの歓楽街を即座に選びます!(断言)そして、ビーチを包み
こむ自然の”マジック・アワー”を演出していても、テレンス・マリックだと
「良く撮ったね!\(^0^)/」となるんですが……この場合「CG処理じゃな
い?」と思っているのも事実(笑)

で……此処までボロクソに書いてあって、何故「お気に入りマーク」の壁紙を
使っているんだ???と疑問符が3つ付くのは察しがつきます……

一重にこの映画を高く評価するのは「共同体」を此れほど迄に「悪意」と「毒」
を以って炙り出した作品を、久々にみたからなんです。

この映画で実に凄いなぁ……と思わせる点は、「甘っちょろい」ところなんです。
この言葉が語弊があるのだったら「踏み外していない」と言い換えましょうか?
「楽園」の崩壊劇と言う情報は仕入れていたので、ラストはもっと凄惨な終わり
方をするのかなぁ………と思いきや、それをしていない。
此処で不満点を見出す方も多いと思うんですね……きっと。
「映画としてのカタルシス」に欠けている………と。それは正しいのですが、果
たしてそれだけかなぁ?と思っているんです。

と……申しますのは、「共同体」としてのはじまりが、極めて微弱で、「規範」
が定められていないからなんです。一応「規範」は、リーダーのサルの御言葉と、
基督教的な思想ですが………それでも、毎日「聖書」を朗読するなんてことは
していない。そして、目的が「快楽」を得ることだけなんですね。鮫に襲われ
て重病になったスウェーデン人のクリストの呻き声が不愉快だ………と言うこと
で、彼は「島流し」的な罰を受ける。側に付き添っていたのはエティエンヌのみ。
唯一、彼がマトモな人間として描かれておりますが……これで彼にそうだ!と
応援する前に一つ聞いておきたい。貴方はどちらの側ですか……?
確信を持ってエティエンヌだと答えられた方を、ぼくは心底羨ましいと思います。
「で……その通りにしてくれるんでしょうね?」と念を押しますが(毒)
そう……これは、「不愉快なものを排除する」と言う現代の寓話なんですが、
それだけだったら、実に浅いと評価を受けても仕方ない部分。ですが……ここ
で恐るべき仕掛けを用意しているんです。

それは、リチャードにダフィの「物の怪」が付いてしまうことなんですね……。
純粋に幻想として描くだけでなく、一種のゲーム感覚として処理してしまっている。
これが凄まじい「悪意」を感じる所以でして、ラストのクレジットに至るまで腐臭
プンプン……毒気満載で突っ走る……。正直言って不愉快な部分ではありますが、
これを無視しては為らない部分だと感じております。

「良く出来たでしょう………フフフ」と言うよりも「貴様ら、これを観やがれ!」
と言う挑戦状のノリを感じましたし、「共同体」のはじまりがああであった以上、
これしか終わり様が無いし……確固たる「規範」があったのだったら血みどろの
惨劇と為るでしょう……ですが、この監督のダニー・ボイルは、もっと凄まじい
悪意を付きつけます。共同体の崩壊であり……ただ、独り遺されたサルの存在だ
ったのです。これは……米国資本の映画ではありますが、この意地の悪さは英国
的ですなぁ……

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司

BGM:モンテ・カリ作『イェ・ケ・イェ・ケ』ハード・フロアMix

(2000年5月4日ワーナー・マイカルシネマズ市川妙典スクリーン2にて鑑賞)

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