(品)『季節の中で』

この『季節の中で』は99年度のサンダンス・フィルム・フェスティバルにて観
客賞(グランブリよりも此方のほうが、自分にとっては重要。これを観ておけば
ハズシは無いです!(断言))と、何と!グランプリのダブル受賞と言う快挙を
成し遂げた、文句ナシの大秀作!

まず、オリーブ色と言うか鶯色の現代美術調の背景とタイトルが出たあと、朝の
光が当たる蓮池と正面の木造建築の御屋敷が映し出されるのですが、このシーン
を観て余りの美しさに涙が……映画がはじまって5秒で落涙したのは、『マイ・
レフト・フット』、『ビヨンド・サイレンス』、そして…この『季節の中で』の
3本だけです。

物語は4つのエピソードが平行して進む構成でして、一つ目は、中年のシクロ運
転手と若い娼婦のラブストーリー。二つ目は、蓮池で花を摘んで、街で蓮の花を
売る娘と、病で隠遁生活を送る蓮畑の持ち主の交流。三つ目は、ベトナム女性と
の間に生まれた娘を捜しに来た、元アメリカ兵の物語。四つ目は、小さな木箱の
中にガムやライターを詰め、街で売り歩く少年の話。

これが付かず離れず、ある地点でそれぞれに交錯しながら、無理に一個所に纏め
ず、淡々と進んでいく「品のある」進め方。

それぞれに「過去」があるんですが……殊更に大きく描かずに淡々と進んでいく
のが良いですね。『マグノリア』の様に「これでもか!」と叩きつける描写も大
好きなんですが、昆布だしの淡々とした味わいもまた良し!

殊にグッと来たのは、ハーヴェイ・カイテル様演じた元海兵隊員のエピソード。
「1968年」と刻印されたライターで、当時「少尉の墓場」と言われた修羅場
を描き出したのは秀逸の極み(感涙)普通だったら、セリフの一言でも……と
おもうじゃないですか?ところがそれすらも切り棄てている凄さ!判らなくても
良いんです……と突き放してはいないけど、知ってくれたらありがとう……と感
じさせる奥床しさが溢れております。

そして、30年を過ぎて高度経済成長を遂げていく際の、「ゆがみ」を出すのは
シクロ運転手と美貌の娼婦のエピソード。「泊りはやらないの」と彼女は語る。
それは、「相手に惚れてはいけない」と言う弱さの裏返しの言葉なんですよね。
娼婦として「一線を守る」とは、ちょっと違ったイメージを受けたんです。です
から、シクロ運転手の好意を感じながらも、拒絶せざるを得ない………。
彼女はホントは誰かを愛してしまいたい……でも、愛してしまったら、今度は
棄てられたら後が無いのも充分に知っている。ですからガードを固くしているん
です。(涙)

過去との和解を示しているのが、蓮売りの少女と老いた当主との詩のやりとり。
これねぇ……痛いです。人から蔑まれるのを避ける為に隠遁して、世を呪って
いた当主が他人とは思えなくて(涙)彼女が「意思」を継承して故郷の河に花を
流すところは、ほんとうに「大河!」(笑)<文句あるか!

そして、「1968年」のライターを売っていた少年によって、「絶望」から
「希望」の光が差すところを余すところ無く表現しています。殊に雨が降ってい
る際の黒塀のシーンは往年の黒澤映画を観ているかの様な端正な「美」\(^○^)/

それぞれの人物が迎える転機と希望……端正且つ、美に溢れた秀作!

強く推薦致します!

「大河浪漫を愛する会」大倉 里司
(2000年8月23日 ビデオにて鑑賞)

BGM:OST:『ボンベイ』より『花と花』

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