(匠)『トゥルー・クライム』

クリント・イーストウッド様は、監督の腕も一流だと思っていますが、ぼくが
「本当に上手いなぁ〜」と感じ取れたのが本作『トゥルー・クライム』なんで
すね。『目撃』では「手堅い」って感じだったけれども、今回はもっと「余裕」
があるんですね。正に円熟の域。

オークランド・トリビューン紙の女性記者ミッシェルは、妊婦殺害の罪で死刑
を宣告されたフランク・ビーチャム(アイザイア・ワシントン様)の事をレポ
ートしていたが、デスクのボブ(デニス・リアリー様)に却下されヤケ酒を呑
んでいた……その愚痴の聞き手は、スティーヴ・エベレット(クリント・イー
ストウッド様)だった。女には目が無いエベレットは妻子がある身でありなが
らも女を口説く日々が続いていた……。それを察したミッシェルは雨の最中車
を暴走させて事故死してしまう……。

そんな事も知らずに、ボブの妻とベットを共にしていたエベレットは、何故か
ボブから直ぐ出社するようにとの命令が下りる……それは、ビーチャム事件の
続投記事を担当する様にとの用件だった……。

ボブとエベレットは犬猿の仲だったが……唯一、編集長のアラン(ジェームズ・
ウッズ様)だけはエベレットの異能の才を知っていた。それで白羽の矢を立てた
のだった。残り12時間の枠内でビーチャムに関する記事を纏めなくては為らな
い………面接の時間は午後4時。軽い気持ちで事件の記事を読んでいる内に不自
然な点が多いことに気がつく………ひょっとしたら冤罪かも?
これが、記者エベレットと死刑囚ビーチャムにとっての長い一日のはじまりだっ
た……

「死刑」に関しての映画は沢山ありますが、サスペンス物として仕上げる場合
「冤罪」を持ってくるのが一番早いんですね。ですが……それらの場合でも知
り合って一週間とか……ある程度の「時間枠」を持たせるものなんですよ。そ
の枠内で弁護士なり、記者と死刑囚……そして目撃者、主犯などの関係を炙り
出していく手法が取られます。しかし、12時間とは驚いた………
良くこれで映画に為るのかな………途中で真相が判って執行停止の時間引き延
ばし策に出るのかと思いきや、本当に12時間の枠内で収めたのには感服しま
した。

時間の経過が実に巧みに織り込まれているんですね。それも画面に何時何分と
映すようなやり方では無くて、背後に時計を置いたり、日差しの強さだったり
台詞や行動日程で判らせる手法には「映画作家」に相応しい貫録があります。

一番ビックリしたのは、「巨匠」であっても初心忘れず、手堅く撮っている部
分と実験的手法を組み合わせているところなんです。編集長のアランにエベレ
ットが「彼は無罪かも知れない」と語ったあと、勿論アランは驚愕した表情を
するのですが、その次のシーンで刑務官の食事のシーンを映し、再びアランの
驚いた顔の同じショットを入れる………同時に進んでいる時間の枠を上手く取
り入れた手法だと感嘆致しました。

イーストウッドの諸作品の中でも、ぼく的には一番「男」を感じた映画ですね。
99年を、これと『ラスベガスをやっつけろ』で〆ることが出来て幸せでした。

「裁判映画友の会」広報担当 大倉 里司
(12月29日 銀座シネパトス1にて鑑賞)

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