(生)『ユナイテッド93』

2001年9月11日。ニューアークの空港は、朝の喧騒に
包まれていた。離陸の準備を整えたユナイテッド航空93便
は、33名の乗客と7人の乗組員、そして4名のテロリスト
を乗せ、サンフランシスコへ飛び立つ。その直後、ワールド
・トレード・センターに2機の民間機が激突した。その頃、
ユナイテッド93便の機内でも、ジアド・サミル・ジャラを
主犯格とするテロリストが爆弾を持って操縦室を制圧。機内
は混乱に陥るが、地上で起こっている事態を知った乗客と乗
員たちは、わずかな武器を手に立ち上がろうとしていた……。

当日、米国領空で4機の旅客機がハイジャックされ、アメリ
カン航空11便がニューヨーク・世界貿易センタービル北棟
に8:46分に激突。その17分後、ユナイテッド175便
が世界貿易センターの南棟に激突。更にその33分後、アメ
リカン航空77便がワシントンDCの国防総省に激突……。
しかし、一機だけ目的地である連邦議会議事堂を目指すもの
の乗客の阻止によって目的地に到達する前に墜落してしまった
のが本作品の主役である「ユナイテッド93便」です。

この映画に関しては、観る前から賛否両論色々な情報が入っ
てきておりました。極めて有名な事件の映画化であり、尚且
つハイジャックされた飛行機内で何が起きていたのかが、ボ
イス・レコーダーや、遺族と交わされた交信記録でしか、中
の状況を推察するしか無い状況なんです。

観る前の予想としては、乗客が飛行機に乗り込む前に家族と
の短い別れのシーンを幾つか織り込んで、ハイジャックされ
ると言う構図を思い描いていたのですが、ものの見事に覆さ
れました。まず意表を突かれたのは「死の決意」を固めた、
ジアド・サミール・ジャラ、サイード・アルガムディ(この
2人がコックピットに陣取った)、アフメド・イブラヒム・
A・アルハズナウィ(この方が爆弾を腹に括りつけていた)、
アフメド・アルナミ(ナイフで乗客を牽制)以上4名のハイ
ジャック犯の祈りのシーンから始まるところなんですねぇ。
このシーンを観て、随分と公正な撮り方をしているなぁ……
と感心致しました。

そして、前半の大部分を占めるのが、各管制センターなんで
すけれども、一度でもオペレーション経験のある方ならば、
この空気……キリキリする程に胃が痛くなるような感じ。情
報が錯綜して一人の手には負いきれず、パニくってしまい喉
がカラカラに渇き、脇の下から汗が出てくる緊迫感が手に取
る様に伝わって参ります。その位リアルです!

映画的に見るならば、確かにこの部分極めてポンポンと場所
が移動するし、管制部も民間だったり、軍部だったり……と
混乱するのは間違い無い欠点とも言える箇所なんですが、自
分としてはこのパートだけで入場料のモトは完全に取れてお
ります。

むしろ……ユナイテッド93の乗組員&乗客について、名前
すら判らない乗客が殆どなんで殆どの方は、そこで戸惑いを
覚えるかも知れません。ただ……ビックリしたのは、原作本
とも言えるジェレ・ロングマンの『9・11 UA93 墜落
まで34分〜ハイジャックされた乗客たちの記録』(光文社
刊 後に『ユナイテッド93』と改題され光文社文庫にて刊行)
そこにハイジャック犯を含め、93便に乗っていた全ての方の
顔写真があって、副操縦士であるリロイ・ホーマー・ジュニア
さまと唯一の日本人乗客であった久下季哉(くげ・としや 享
年20歳)の御二人が顔のイメージが違うだけで、他の面子に
関しては名前だけが出て来ないだけで、家族と会話した通話内
容、そして顔、体型、髪型等で誰が誰だか判ってしまうんです。
つくづく、事前に本を熟読しておいて良かったと思いましたで
す。

まず、93便に最後に乗り込んだのは、ゲイであったラガー・
マンであるマーク・ビンガムさま。ファーストクラスに乗って
いて最初に殺されたブルーのジャケットの男性は、マーク・ロ
ーゼンバーグさま。客室乗務員でナイフで首を切られて絶命
してしまうのがデボラ・ウェルシュ御嬢様。9時26分に機内
から元客室乗務員!の奥方ディナに電話したのが、トーマス・
バーネット・ジュニアさま。彼は9:44分に奥方に再度電話
しているのですが、その際に世界貿易センタービルがハイジャ
ックされて激突した事を知ります。
最初にコックピットに乗っていたジェイソン・ダール機長と、
副操縦士であるリロイ・ホーマー・ジュニアさまの死体を運び
出す(この部分は、記録には無く推測に因るものです)を目撃
したのは国立野生保護区の監理官であり格闘技の心得もあった
リチャード・ガダーニョさま。身長は172センチと小柄であり
ながら何とベンチプレスでは150キロも挙げてしまう驚異的
な身体能力の持ち主(そうそうザラには居ません!)
そして、この映画の中で最も重要な役割を果たすのが、元柔道
の全米チャンピオンであるジェレミー・グリックさまでして、
彼と体格の良い3人(映画の中では、マーク・ビンガムさま、
リチャード・ガダーニョさま、トーマス・バーネット・ジュニア
さまの3人)が客室乗務員と作戦の練り合わせをしていると言う
描写が為されております。

小型機であれば飛行機の操縦が出来ると機内で話していた(こ
れも推測)のが、ドナルド・グリーンさま、補佐が出来ると語
ったのは航空管制官としての訓練を受けたことがあるアンドリ
ュー・ガルシアさま。

「金庫の中に遺言があるの」と妹のエルサに電話を入れたのは、
リンダ・グロンドランド御嬢様。刺されたマーク・ローゼンバ
ーグさまの救護にあたると最初に彼のところに向かったのは、
ローレン・グランドコラス御嬢様……他にも、顔を確認出来た
のは、眼鏡を掛けていた髪型の特徴のあるコーリン・フレイザ
ー御嬢様、同じく眼鏡を掛けた客室乗務員ロレイン・ベイ御嬢
様(彼女はこのフライトで引退することになっていた)、「熱
湯が武器になるわ」と語ったのが、客室乗務員のサンドラ・ブ
ラッド・ショー御嬢様。始終電話をしていたのがルイス・ナッ
ケ2世……。「隣のとても親切な人が携帯を貸してくれたの」
と母親に電話したのが、オナー・エリザベス・ワイナオ御嬢様。
時折窓の外を見ていた髯面の日本人青年が久下季哉さま。

と……書いていてまだまだ取り残された方がいるんだなぁ……
と心が押しつぶされそうになってしまいます。

今回こうして、名前が判る方を出来るだけ書いたのは、この映画
の中では乗客の名前が一切出て来ないからなんです。それは映画
の最後の部分になるとその理由が判ってくるのですが、「情」を
入れる事を廃することで、生きることを選択したが故の乗客達
残酷さを一層際立たせている事に成功していると思います。

いやぁ……このシーンだけを見せられたら、どちらが被害者か
が判らなくて、真面目にハイジャック犯の方々が気の毒に思え
てしまいました。(涙)
予め死ぬ覚悟は出来ていた人間でも、まさかこんな死に方をす
るなんて無念に他為らなかったでしょうし、乗客の方も大人しく
座っていて身代金要求があると言う通常のパターンだったら、
我が身可愛さにこんなことはしなかった筈なんですよねぇ。

様々な思惑を地面に叩きつけて44名の命が失われたのは、
2001年9月11日 午前10:03分の事でした……。

「パニック映画」としてのみならず、近年希に見る「ハード・
ボイルド映画」の金字塔として、個人的ベスト1候補がもう
一本追加になりました。

「パニック映画友の会」大倉 里司
(2006年8月18日 ワーナー・マイカルシネマズ市川妙典にて鑑賞)

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