(毒)『鳩の翼』

皆様、明けましておめでとう御座ひます。わたくし、マダム・DEEP
と申します。

1910年代のエドワード朝の倫敦とベニスを舞台に繰り広げられる
ヘンリー・ジェイムズ様原作の華麗で残酷な絵巻物とでも申せませ
ふか?

殿方と御婦人の間の「機微」を此処まで見事に描写しつくした映画
は、わたくしにとりまして『危険な関係』以来の衝撃的な事件でせふ。
文句無しにわたくしの今年度ベスト1候補に挙げさせて頂きます。

『鳩の翼』とは、英国と米国を結ぶ友好的な架け橋の意味も御座ひ
まして、この映画では、アリソン・エリオット様が御演じになりました
富豪の亜米利加娘ミリー様が該当するのでせふ。

この映画は、ある一人の女性が倫敦の地下鉄に乗り込むシーンか
らはじまりませふ。車内が込み合つており、座席に座つてゐた若き
殿方が座席を譲ります。

御婦人の名は、ケイト(ヘレナ・ボナム・カーター様)、殿方の名は、
マートン(ライナス・ローチ様)やがて、二人は、人気の無ひエレベー
ターに乗り合わせ、激しく抱擁を交わすので御座ひます。

このシーン一つだけでも、道徳に縛られて身動きが取れなひ当時
の社会風俗を見事に切り取つておりますの。

ケイト様は叔母のモード夫人(シャーロット・ランプリング様)の元に
居るのでせうが、叔母は、貴族であるマークとケイトの交際は認め
ても「格」が違ふマートンとの交際は認める積もりはさらさら無ひ
のでせふ。

とある舞踏会にて………亜米利加娘のミリーが、マートン様にどふ
やら気があるらしひと云うことに気が付き、ケイトは、ある策謀を
持つて、マートンとミリーを結ばせやふと致しますが……その結末
とは………。
これが、大体の粗筋でせふか?


(核心に触れませふ)


このケイトと云ふ御嬢様なのでせふが、見事な迄にわたくしの持つ
性格を活写してくれるものでせふ。また、ミリーの純粋さとマークの
粗野さを併せ持つて居る男が大倉でせふ。
人間の心と云ふものは、計り知れなひ闇を抱へているものだと、
わたくし、この映画を観て改めてそふ感じましたの。

とりわけ、この映画の見所は、海の都であるヴェニスにて、3人が
綾なす心の襞にこそ在るのだと感じましたの。

さしずめ、かふでせう………。

男と女が夜会服に身を纏ひ、幸福を得るために舞つているのですわ。
但し、それぞれの服には硝子の針が胸元に仕込まれていて、動く度に
魂の血が流れ出るので御座ひます。それでも………舞ひ続けなくては
なりません。硝子針には糸が付けられていて、一人の御婦人が上で
糸を操つておりました。

ケイト様が御二人の服に針を刺したのは、言つてみれば、最初はミリー
様に対する同情の念と、叔母の保護下を離れ、マートン様と自立した
生活を送る為の資金稼ぎの為。

マートン様が服を纏つたのは、ケイト様を最初は失いたくが無ひ為。
それでも、舞ひつづけたのは、死を目前にしても輝き続けるミリー様
の光に魅せられた為。

ミリー様は、服に針が仕込まれているのを知りながら服を身に纏つ
た方ですわ。偽りでも善ひ。愛が欲しかつたし、ケイト様のことも
好きだつたと云ふ純真無垢な御婦人故、針の刺さり方が非常に弱
ひものでしたの。

ケイト様が嫉妬に刈られて………二人の針に付いた糸を抜いた瞬間
にマートン様は胸から血を吹いて倒れられ、ミリー様はちよつと血は
出たものの………服ごと脱げて仕舞つたのですわね。

マートン様が倒れられてゐて誰も居ない、空虚な大広間にて、ケイト
様が出来たのは唯一つ。ミリー様が着ていた硝子針が仕込まれた
夜会服を身に纏い、血を流した侭のマートン様と舞ひ続けることしか
出来なかつたのですわ………。何とも因果で残酷な結末でせふか?

『裏社交界の徒花』 マダム・DEEP(HCD05016@nifty-serve.or.jp)

BGM:OST『鳩の翼』

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